独創的な発想力を鍛える教育の秘密とは?

黒電話もぐらたたき
教育最前線(発想力を育む教育)

今、社会が求めるのは未知の世界を拓く発想力豊かな人材

1992年まで世界一だった日本の国際競争力は、2025年には35位と大きく低下した。その要因の1つに、ビジネスや研究でのイノベーション創出力の低下がしばしば指摘されている。しかしながら中等教育の現場を訪れてみると独創的な発想を生み出す教育も広がっているのが見えてきた。ここでは女子美術大学付属、桐朋、麻布、山梨学院、北里大学附属順天、東京女学館、桐朋女子、海城、共立女子、東京農業大学第一の10校の取り組みから独創的な発想を生み出す6つのポイントを紹介する。

(文/松岡理恵)

今日、社会では閉塞感が漂い、ビジネスや研究分野でも国際競争力の低下が著しい。そのためイノベーションが求められ、「アート思考」が注目されている。従来、日本人は欧米で発想されたものを改良することは得意だが、独創的な発想は苦手と言われてきた。学校でも教育目標は、「正解」をより速く正確に導き出し、暗記することにあった。しかし生成AIが最適解を提示する今、知識の蓄積だけで価値を生む時代は終わった。既存の枠組みを疑い、異質な要素を組み合わせて新たな価値を創出する「独創的な発想力」こそが、閉塞感を打破する鍵となる。

独創性とは、単なる天性の閃きではない。それは試行錯誤が許される環境で、自らの違和感を掘り下げた先に宿るものだ。高い学力を持つ生徒ほど「正解」という型に固執しがちな今、いかにして「独創的な発想」を形にする力を授けるか。10校の教育実践から、そのポイントを6つにまとめて紹介したい。

その1~アイデアの収集・蓄積が奇抜な発想の源泉

独創的な発想力を育むには、アイデアの蓄積が不可欠だ。桁違いの発想力で注目を集めるのは女子美術大学付属だ。同校の生徒のアイデア源は「好きなものファイル」と呼ばれるもの。自分の心に響くものを何でも集めるスクラップ活動だ。服のタグ、パッケージデザイン、雑誌の切り抜き、季節の葉っぱまで、気になるものを片っ端から集め、ファイルしていく。また、枕元にノートを置いてアイデアを書き留める習慣を持つ生徒もいる。発想は眠っている間に熟成され、朝ふと浮かぶことも多い。こうした小さなアイデアの蓄積とその組み合わせが、やがて奇抜な発想力の土台となっていくのだ。

その2~いたずら心・遊び心が生み出す発想

既存の枠組みを疑い、遊び心やワクワク感を大切にする姿勢も、独創的な発想の源泉となる。桐朋の電子研は、中1のラジカセ解体という遊びから始まった。予算も部室もない環境が逆に生徒の知恵を絞らせ、廃家電の部品を再利用して「作りたいもの」を形にする独創性を引き出した。役立つかより「面白い」を優先し、「黒電話もぐら叩き」や「(教室の)時計の早送り装置」などを生み出す遊び心・いたずら心こそが、型破りな創造の原動力だ。

麻布の物理授業でも、手作りの実験道具が生徒の遊び心と好奇心を揺さぶる。ある実験中、教員の「壁への固定は無限に重い台車に繋ぐのと同義」という示唆がトリガーとなった。生徒たちは、簡素な手作り道具ゆえの「改造のしやすさ」を活かし、遊び心も発揮し各班のレールを勝手に連結。固定された壁を「動く台車」に置き換え、バネで繋がれた2体が互いに影響し合って動く複雑な現象観察へと遊びを昇華させた。既存の枠を超えて未知を確かめようとする姿は、遊び心と探究心が一体となった発想力を示している。

その3~挑戦心・競争心が生み出す発想

挑戦心と競争心が生む刺激も、生徒の発想力を磨く重要な要素である。山梨学院の「パーソナルプロジェクト」では、生徒が自らテーマを決め、1年間の探究研究に挑む。教員は対話を通じて興味を掘り下げ、失敗が予見されても軌道修正を強いない。自由な探求こそが学びの熱源だからだ。3,000を超える過去の研究は、ほとんど同じものがない。その独創性を支えるのが、全校生徒の前で披露されるプレゼンだ。下級生は先輩の「1年次にロケットの打ち上げに挑戦し、2年次に高度を求めて二段ロケットを製作し、3年次には付加価値をつけ、カメラを搭載したロケットで空中撮影をするまでに深化させた研究」といった奇抜な研究に触れて好奇心を刺激され、「先輩を超えたい」という競争心を燃やす。その連鎖が「アニメ『天空の城ラピュタ』の飛行石の秘密を物理学の視点から解き明かそうとした研究」など、毎年予想を超えるテーマを生み出していく。   

北里大学附属順天でも同様の相乗効果が機能する。高1、高2の合同授業では、先輩の背中を見た後輩が「自分ならこうしたい」と次の発想を繋げ、コンクールに果敢に挑戦する。「樹木の傷から放出される化学物質の農薬開発への応用研究」で環境省最優秀賞受賞や、「他校生との共同プロジェクトによる宇宙線イメージング検出器の開発」でCERN(欧州合同原子核研究機構)に素粒子実験を採択されるなど、高い挑戦心は世界に通じる成果へと結実している。

その4~異なるアイデアの組み合わせが生み出す発想

異なる分野のアイデアを組み合わせる力も、型破りな発想を導く起点となる。東京女学館では2023年度から、音楽・美術・書道の芸術系三科目融合授業がスタートした。例えば、音楽では「共生」をテーマにし、「曲と楽譜を作る」という課題を設定。授業では先入観を解きほぐすことからスタートする。既成概念を覆した近現代の音楽作品やグラフィック・スコアと呼ばれる抽象的な図形や絵で構成された楽譜にも触れ、生徒は感覚を拡張させていく。さらにはブレインストーミングやマインドマップで「共生」を咀嚼し、曲や楽譜でいかに表現するかを考える。そして人種・文化、テクノロジーと人間など、自分の興味関心を起点に作品のコンセプトへと落とし込んでいく。作曲には音楽制作アプリを活用。校内の雑音や街の雑踏、楽器を奏でた音など、自分のイメージに合う音を録音し、採取した音源をアプリ上で何層にも重ねて1分間の作品を作り上げていく。こうして出来上がったものはその型破りな発想に驚かされる。

桐朋女子の美術でも、自然→人→環境→社会と、学年を追うごとに課題となる対象物の幅が広がっていくなど、最初は対象物の“観察” に重きを置き、そこから徐々に自身の“発想” を加えて表現していく課題編成となっている。さらに高校では、利用する相手を想定した創作絵本やレコードジャケット、知育玩具、公共性に根ざしたデザイン制作など、課題そのものが社会性を帯びていくのが特徴だ。

その5~流行に流されない自分の感性が生む発想

一人ひとりの「こだわり」を追求できる環境も個性的で自由な発想を育む基盤となる。海城の国語授業では、対話的・協働的な学習を通じ、世界を細やかに認識する力を養う。中1の「Pictionary」は、特定の言葉から想起されるイメージを写真に収める課題だ。「憧れ」という一語でも対象を撮る者もいれば、見つめる人の背中を撮る者もいる。続く中2の『走れメロス』の「スティルイメージ」では、場面の解釈を議論し、静止画で表現する。他者の多様な視点に触れる経験が、既成概念を払拭し、柔軟な読解と独創性を引き出していく。  

共立女子では中1・中2の「リーダーシップ開発」で培った力を活かし、自らのアンテナを信じて探究活動に取り組む。「社会的に評価されやすいテーマ」よりも「自分の真の興味」を優先させる。その結果、「日本と海外のグミの硬さの違い」「キャラクターのイメージカラーが人気におよぼす影響」「落書きと作品の境界線」など、10代ならではの鋭いこだわりが光るテーマが生まれる。たとえ正解が出ずとも思考の軌跡を尊び、自分の違和感や好奇心を突き詰める経験は、変化の激しい社会で周囲に流されず、新しい世界を切り拓く思想やアイデアを生み出す力となるだろう。

その6~自由な発想を生み出す空間

多様な学びの経験が重層的に絡み合う時、生徒は自由な発想のエネルギーを獲得する。東京農業大学第一では、小学校からの内進生と中学受験組が混合クラスで学び、互いの得意分野を教え合う「共創」の文化が根付いている。放課後の「一中一高ゼミ」は、学問に境界がないことを実感させる。ここでの興味関心は、中1から高1まで続く本格的な「課題研究」へと進化していく。2023年度には、自学自習やゼミ形式の講義、生徒同士の自由な議論などに活用するためのラウンジが新設された。今、ここは生徒たちの自由な発想力を解放する場として大きな効果を上げている。

以上の事例が示すのは、独創的な発想力は、アイデアの蓄積、遊び心、挑戦、視点の交差、個のこだわり。これらが引き金となって、生徒たちは既成概念を軽やかに超えていく。型破りな発想力こそが、未知の未来を自らの力で切り拓き、社会に新たな価値をもたらす確かな礎となっていく。

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