海城中学校
誰一人、取り残さない英語教育が、学びのフィールドを世界に広げる
【注目ポイント】
- 4技能を養うため、中1〜2で英語の基礎を着実に築く。
- 国際社会で活躍する人材育成を支援するグローバル教育部。
- 国際的な大会では優秀な成績を収め、海外大学進学者も輩出。
誰一人、取り残さない英語教育
高い進学実績を誇る海城中学高等学校。近年、その進学先は海外の名門大学にも広がっている。その背景を探っていくと見えてきたのは、誰一人取り残さない、という同校の英語教育の姿勢だ。
海城の英語科は、『楽しみながら基礎を身につける』(中1〜2)、『様々な活動を通じ、定着を図る』(中3~高1)、『目的意識を持ち、運用能力を磨く』(高2〜3)と学年ごとに目標を掲げる。英語科副主任の永田岳教諭は「中1~2段階で英語力の土台を築くことを重視し、4技能を着実に養っていく」と語る。6年間で積み上げていく英語力のベースをしっかりと作るため、中1〜2段階では特に、生徒たちが英語に苦手意識を持たないよう注力しているのだ。
例えば、中1では週6コマある英語授業のうち2コマを分割授業とし、クラスを2つに分けて行う外国人教員による英会話と日本人教員が文字や発音、文法を指導する授業を実施。生徒一人ひとりに目を配る丁寧な対応に徹し、各種副教材や自作の教材などの活用も行う。
また永田教諭は、最大でも10分程度で完結する短時間の活動を多種組み合わせる工夫をすることで、生徒が飽きることなく集中して授業に取り組める配慮をしている。過度に難しく大量の知識の習得を強いるのではなく、「小さな練習を積み重ねることが何より重要」と考えるからだ。
あくまでも一例ではあるが、スピーキングであればペアでのセッションは1分。その後、全体で振り返り共有し、表現方法の確認までが1分〜1分半。再度ペアを替えて同様にセッション……、これを繰り返す。同じ内容をリピートしながら、新たな要素を少しずつ加えていくことで、内容を定着させるという。
そのほかにも同校では、クラス全員で頻繁に洋楽を歌う。学年によっては対訳のプリントも用意される。中には自分の好きな洋楽曲を訳して自主的に勉強する生徒もいるという。洋楽の歌唱は高3になっても継続され、時には生徒が希望した楽曲を取り上げることもある。
また「生徒たちは、自分たちで何かを生み出したい欲求が強い」と永田教諭。基礎をしっかり定着させるのとは別軸でICTを活用した英語での雑誌制作、英語劇の脚本作り、希望制の講座での英文新聞『Kaijo Times』の発行にも取り組む。
このように同校の英語教育では、生徒が飽きることなく楽しく学ぶことに重点を置き、様々な工夫を続けているのだ。
そのほか帰国生や英語力の高い生徒に対しては、中1〜での取り出し授業も実施し、さらなる英語力の向上をサポートすることも怠らない。
こうして中1〜でしっかりとした英語の土台を築いた後、中3〜高1で発表活動やディスカッションなどを通して、文法・語彙力や表現力を身につける。そして高2〜3では受験を意識したエッセイライティングの授業で論理的に自分の主張をしっかり伝えられる力も育成していく。
グローバル教育部でのバックアップ体制
帰国生のサポートを目的とした「帰国生支援室」を前身とするグローバル教育部は、2012年に設立された。岡崎行則・グローバル教育部長はその役割について、「帰国生ならではの心配事もあるので、それらの不安を払拭するための帰国生サポートは継続しているが、新たに海外研修・国内英語研修の充実、在学生の留学・海外大学進学の支援、国際的視野の育成などの役割も広がっている」と語る。
同校の国内英語プログラムには、中2限定のイングリッシュキャンプ(希望制)がある。生徒5〜6名に外国人講師が1名ついて3日間行われるものだ。同校近隣の高田馬場・早稲田地区を実際に歩いて隠れた魅力を見つけ、最終的に英語によるグループプレゼンテーションで発信する。
中学卒業時の3月下旬に2週間行われるアメリカ研修(希望制)では、バーモント州に1週間ホームステイをしながら姉妹校に通学。ディスカッション形式のアメリカの授業を実体験し、クラスメートやホストファミリーと交流を深める。その後はボストンに2泊し、マサチューセッツ工科大学やハーバード大学を訪問する。
高1~2対象の2週間のイギリス研修(希望制)は、モーバンカレッジのキャンパスを借りて7月下旬から8月にかけて実施。昨年度は「日英比較」というテーマで、同年代の若者へのインタビューを元に英文原稿を作成し、現地の先生やホームステイ先の家族を招いて、スピーチの発表会を開催した。
そのほか、約2カ月の高校カナダ短期留学(希望制)や約1週間のモンゴル・スタディツアー(希望制)なども実施している。
多彩な分野で活躍し、海外大学に雄飛
同校で培われた英語力を武器に多彩な分野で活躍する海城生も多い。国際天文学・天体物理学オリンピック日本代表として出場した高3の生徒は金メダルを受賞。欧州の査読付名門数学雑誌『NNTDM』に論文が掲載された生徒もいる。
なかでも英語ディベートやディスカッション、模擬国連に取り組むグローバル部の活躍はめざましい。全国高校教育模擬国連大会では既に常連校となり、2018年にはNYで開催された国際大会で日本人男子初の最優秀賞にあたる事務総長賞を受賞した。その後も2022年と2023年に2年連続して、国際大会への切符を掴んでいる。
また、事務総長賞を受賞した生徒がハーバード大学へ進学したことで海外トップ大学も海城生にとって現実的な進学先となった。その後もカリフォルニア工科大学、トロント大学、さらに今年はマサチューセッツ工科大学などへの合格者を出している。
海外トップ大学へ進学する生徒について岡崎教諭は「他者のために頑張りたいという思いが強い」という。カリフォルニア工科大学に進んだ生徒は、在学中にも経済的に恵まれない子どもたちに数学を教える活動を自主的に行っていた。さらには大学進学後も一時帰国時に「海外大学を目指す後輩たちのためのワークショップを開きたい」と母校に提案。これを受けて50〜60人の生徒と保護者を集めてのワークショップが開催された。
さらにこうした行動は、卒業生だけでなく低学年の在校生にも見られる。中1を対象とした放課後の希望制講習で作成された、新1年生向けの英語アドバイス集もその一つ。1年間の英語の授業を皆で振り返って議論を重ね、自分たちの経験から大変だったと感じたことを、これから学ぶ後輩のために写真や音声を添えて盛り込んだという。
自らの知識や経験を、誰かのために役立てたいという“思いやりの心”は着実に培われているようだ。
学校や教員が常に大切にしている思い
K(海城)とS(School)を組み合わせた海城中学高等学校の校章。縦の軸は船の「帆」を、S字の曲線はその帆をたわませ船を前へと推し進める「柔らかな海風」を表す。「帆」によって暗示される船はいずれ大海原、すなわち未知なる社会・世界へと旅立つ海城生を、そして柔らかな海風は、生徒に寄り添い柔軟に支援・教育する教員の姿を象徴する。
同校の6年間で育まれる「高い知性」と「豊かな情操」は、新時代の風をしなやかに受け止め、海城生の船を今後も力強く航行させるに違いない。
学校データ(SCHOOL DATA)
所在地 | 〒169-0072 東京都新宿区大久保3-6-1 |
TEL | 03-3209-5880 |
学校公式サイト | https://www.kaijo.ed.jp/ |
海外進学支援 | 有 |
帰国生入試 | 有 |
アクセス | 新大久保駅(JR山手線)徒歩5分 西早稲田駅(東京メトロ副都心線)徒歩8分 |
国内外大学合格実績(過去3年間) | ハーバード、カリフォルニア工科、ミシガン、ジョージア工科、カリフォルニア、東京、京都、東京工業、一橋、東京医科歯科、東京外国語、早稲田、慶應義塾、上智、東京理科、東京慈恵会医科、順天堂など |
【関連情報】