海城中学校

撮影中も話し合いを重ねながら、「走れメロス」の場面を表現する

コミュニケーション力を重視した学びが 自由な発想と多様性溢れた校風を創る

【注目ポイント】

  • 言葉の世界を広げる学びが、真の多様性を認め合う力を育む。
  • 身体と心に結びついた体験が、自己形成と他者理解を深める。
  • 段階的に深化する国語教育が、未知の課題に向き合う力を培う。

建学の精神に根ざすユニークな国語教育

「国家・社会に有為な人材の育成」を建学の精神に掲げる海城中学校。時代とともに進化する現代において、「有為な人材」とは「新しい学力」と「新しい人間力」をバランスよく兼ね備えた人材であると海城は考える。「新しい学力」とは、課題を自ら設定し解決する能力を指す。一方、「新しい人間力」は、他者との対話を通じて相互に学び、協働する能力のことである。

こうした理念を実現するために、海城では、様々な教育実践に取り組んでいる。代表的なものとして、2つの体験学習プログラムの導入が挙げられる。一つがPA(プロジェクトアドベンチャー)で、身体を動かしながら課題解決に取り組むものだ。個々の異なる強みを最大限に活用する創発の体験と、挑戦には仲間の支援が不可欠であることを体験的に学ぶ。もう一つがDE(ドラマエデュケーション)で、演劇ワークショップを通じて「価値観の異なる他者と協働して問題を解決するコラボレーション能力」や「対話的なコミュニケーション能力」を育成するものだ。これらのプログラムは、後述する国語教育と同じ理念に基づいている。

国語教育で特筆すべきは、グループワークや相互評価・添削を通じ、多様な他者と協働する力の育成を目指している点だ。一般的な受験対策国語が論理的読解力と記述力に重きを置くのに対し、海城の国語では、これに加えて対話的・協働的な学習を重視し、将来にわたって役立つ「新しい人間力」を育む。

例えば、中1では夏休みの宿題として、「Picture」(写真)と「Dictionary」(辞書)を組み合わせて「Pictionary」と名づけたアルバムを完成させる。「Pictionary」には1ページに1つの言葉(「憧れる」「芸術」「潤い」など)が記されており、その下には写真を貼り付けるスペースがある。生徒たちは言葉の意味を辞書で調べて書き込み、その言葉にあわせた写真を貼る。同じ「憧れる」でも、自分が憧れの対象の写真を貼る生徒もいれば、憧れている対象を見つめる人の姿を撮影する生徒もいる。同じ「芸術」でも、何を芸術とするかは様々だ。夏休み明けには、それぞれが作ってきた「Pictionary」を鑑賞し合う。多様な解釈を共有する中で、同じ言葉でも、それが喚起するイメージが人によって異なること、見え方が変わることに気づくことになる。

国語科主任・中村陽一教諭は、「言葉を学ぶことは世界を認識することに直結している。様々な言葉とその意味を知ることで、世界がより細やかに見え、世界の彩りがより豊かになる」と述べている。中村教諭は、言葉は頭だけで理解するのではなく、体や心を通じて習得されるべきものであり、こうした体や心と結び付いている言葉を自分のものにすることが自分の世界を広げ、自己形成につながると強調する。また、「異なる価値観を持つ人が集まるからこそ、新しい問題を解決できる。これが真の多様性を生かすこと」と、多様性と「新しい学力」たる課題解決能力との関係を指摘する。

中学1年生が取り組む「Pictionary」

協働しながら多様な解釈に触れる

音楽は中学受験科目にないだけでなく、小学校の音楽教員との関係がうまく取れなかった経験から、音楽嫌いの新入生も多いという。このため、齋藤教諭は「中学3年間でマイナスイメージからゼロまで引き上げるのが目標。歌唱試験で重要な評価ポイントは大きな声で歌えること」と語る。

海城では中1~3年生と、高2~3年生の選択者に対して音楽の授業を実施している。中学では歌唱、アルトリコーダー、鑑賞(座学)をバランスに配慮しながら授業を行う。高校では斉唱、合唱が中心となり、これまでにミュージカルの名曲『Seasons of Love』や『Another Day of Sun』、また、あいみょん作曲、石若雅弥編曲『愛の花』なども扱ってきた。実は教科書に掲載されている合唱曲は共学校向きのものが多い。そのため、男子生徒の心に響くような詩や内容が盛り込まれた海城オリジナルの教材も作成し使用するようになった。今はその価値がわからなくても、大人になっていい曲だったと思えるような詩、そしてその内容にしっかりと関連づけて構成されている曲を選んでいるという。保護者から『子どもが音楽を好きになった』という声が寄せられるのは嬉しいと齋藤教諭は語る。

音楽の社会的側面を学ぶ「鑑賞」授業

中2が読み進める教材の一つである太宰治の「走れメロス」では、「スティルイメージ」という学習活動を導入する。各班(6~7人)が小説から異なる5つの場面を選択し、それを教室外で演じ、写真に収めるというものだ。生徒たちは皆楽しそうに取り組み、積極的に参加している。

例えば、王様の表情一つ、メロスの手の位置一つをめぐって、班内で議論が繰り広げられる。「この場面の王様は威圧的な表情を見せるべきか、余裕を持った顔であるべきか」といった意見が出ると、小説の細部を何度も読み返すことになる。その過程で、文章を読む力が磨かれ、他者の解釈を聞くことで自分の読みの幅が広がる。別班が同じシーンを選んでも、撮影される写真は全く異なったものになる。その違いを認め合い、相互に学び合う経験が、多様性を尊重する姿勢へとつながっていく。

国語科副主任・鈴木仁義教諭は、「楽しみながら取り組むことを通じて、活発なコミュニケーションが生まれ、普段授業では発言しない生徒も積極的に表現するようになる。重要なのは活動後に振り返りの時間を必ず設けて、自分たちの学びを整理すること。こうした活動を通じ、中学受験の経験から国語に苦手意識があった生徒もそれが払拭され、その後の学びの吸収は大きく違ってくる」とその意義を語る。

段階的深化と、専門性を活かした探究

中学から高校へと進む中で、海城の国語教育は論理的な思考を可能にする言語活動から現代社会の課題を読み解く力の育成へと、段階的に深化していく。評論の読解や近現代の小説、古典なども幅広く学ぶ中で、グループワークやディスカッション、プレゼンテーションを通じ論理的思考を鍛え、対話・協働する力をさらに発展させる。

高3では、自身の未来に向けて入試問題演習にも取り組む。教員からの解説に加え、記述問題の解答をグループで検討する、互いの解答を添削し合うなど、これまで培ってきた対話する力、協働する力を活かしながら、入試問題を解く力を身につける。演習には、時事的・社会的な最先端の事象を敏感に迅速に取り上げる傾向がある大学入試問題を用いることが多い。これにより生徒は、現代の課題を読み解き、課題解決への思考を同時に培うことになる。

また、全学年を対象にした「探究」の時間では、生徒の興味に合わせて様々な科目から講座を選択できる。その中に「国語科のリレー講座(「日本文学食べ歩き」「文学総合講座」)もあり、各教員が自らの専門や興味関心のある分野について講義を担当する。講座では、村上春樹や大江健三郎といった作家研究から古典文法の探究、生成AIを活用した短歌作成など、多様な分野のテーマが扱われ、大学のゼミに近い形式で、少人数による深く、ハイレベルな学びの場となっている。

さらに、「KSプロジェクト」と称して、各教科のカリキュラムを超えた生徒の主体的な学びの場も設けている。通常の授業の枠に収まりきらない「とがった」興味・関心に応える講座、学外の活動に積極的に挑戦する講座など、ワクワクしながら学べる場となっている。その中では俳句甲子園への参加や、書評家・豊崎由美氏を招聘した『書評の集い』など、言葉と文学に関わる多様な活動も展開されている。

高校1年生のグループワークの様子

建学の精神の実現と、卒業生たちの未来

創立者・古賀喜三郎は、英国軍艦を訪れ、貴族出身の英国海軍士官の人間力に深く感銘を受けた。そして、リベラルかつフェアな精神を備えた「新しい紳士」の育成を志し、学校を設立したのが海城の始まりだ。

 

その教育の成果のひとつとして、海外大学への進学者の増加が挙げられる。模擬国連世界大会で日本人初となる事務総長賞(最優秀賞)を受賞した生徒がハーバード大に進学したことが、契機となった。その後、カリフォルニア工科大、トロント大、マサチューセッツ工科大など海外大学へ進学する生徒が続いている。そして彼らは一様に他者のために頑張りたいという思いも強い。カリフォルニア工科大に進んだ卒業生は、在学中にも経済的に恵まれない子どもたちに自主的に勉強を教える活動を行い、進学後も一時帰国時に「海外大学を目指す後輩たちのためのワークショップを開きたい」と提案。これを受けて生徒と保護者を集めてのワークショップが開催された。

このように海城の『新しい紳士の育成』という教育目標は卒業生の姿にしっかりと反映されているようだ。

学校データ(SCHOOL DATA)

所在地〒169-0072 東京都新宿区大久保3-6-1
TEL03-3209-5880
学校公式サイトhttps://www.kaijo.ed.jp/
海外進学支援
帰国生入試
アクセス新大久保駅(JR山手線)徒歩5分
西早稲田駅(東京メトロ副都心線)徒歩8分
国内外大学合格実績(過去3年間)コロンビア、マサチューセッツ工科、ミシガン州立、イリノイ、ジョージア工科、カリフォルニア、ヴァッサー、トロント、マギル、エジンバラ、東京、京都、東京科学、一橋、東京外国語、早稲田、慶應義塾、上智、東京理科、東京慈恵会医科、順天堂など

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