才能教育としての部活動
注目の部活動
自由な学びが秘めた力を呼び覚ます
好きなこと、興味関心があることに没頭する生徒たちは、周囲が驚くほどの能力を開花させていく。自らの才能を発見し、その才能を楽しみながら存分に発揮する生徒たち。そこには、通常の授業とはまた違ったキラキラ輝く笑顔や、凛とした表情が見てとれる。ここで取り上げた4校の部員たちは、それぞれ「女子は理数系が苦手というイメージを打ち破って世界一になる」「マイナスの環境の中でも、知恵と工夫で独創性を発揮する」「真実を求めて飽くなき実験に挑戦し続ける」「部員でない生徒にも門戸を開くことで学校全体の数学力アップにも貢献する」といった驚くような活動を実践している。“才能教育としての部活動”をテーマに、固定観念の壁を打ち破っていく若者たちの姿に光を当てていく。
モデルロケット国際大会で
優勝した女子チーム
普連土学園中学校 理科部
Science Club
普連土学園では日頃の理数教育で身につけた思考力を発揮し、課外活動で大きな飛躍を見せる生徒がいる。同校の理科部には約50名の生徒が所属し、モデルロケット班、鉄道模型班、鉄道5 inch班、ガラス細工班の4つの班に分かれて活動している。いずれも学外のコンテストで優秀な成績を残してきた。中でもモデルロケット班は、モデルロケット協会主催「ロケット甲子園」の上位常連校であり、2018年より3連覇を達成。さらには2022年7月のイギリス・モデルロケット国際大会「インターナショナル・ロケッタリー・チャレンジ(IRC)」で、日本代表チームとして、さらに女子チームとしても初となる優勝を収めた。
IRCは青少年の航空宇宙産業への関心を高めることを目的とした大会で、日・米・英・仏の4か国を代表する中高生が参加。中高生を対象とした大会とはいえ、推進薬として火薬を用いるなど、製作するロケットは本格的だ。決められた高度までいかに正確に飛ばすか、発射から着陸までを制限時間内に収められるかなど、課される条件もハイレベル。ロケット内部には人に見立てた生卵を載積することも特徴的なルールで、着陸時に生卵が割れていれば失格となる。実際に宇宙へ飛び立つロケットがそうであるように、安全性は必須条件だからだ。審査には英語によるプレゼンテーションも含まれるため、英語力や表現力も問われる。
同校のロケット班は、高校生レベルをはるかに超えたデータ分析力と計算力、流体力学を駆使し、モデルロケットを作製した。それでも国際大会での優勝までの道のりは失敗と克服の連続だったという。「最も印象に残っているのは、自身の確認不足により製作に時間のかかる部品を作り直すことになったこと」とメンバーの江川さん。同じく中川さんは「当初は自分の記憶力を過信していた。チームメイトと連携を図るためにも、誰が見ても分かる記録を残すことが重要」と気づいた。そんな中で、今の自分たちにできることを探し、緻密な計画を立て、最後まで諦めなかったことが今回の成果につながったという。
その彼女たちも「海外では工学系の分野にも女性が多く、全員が堂々としている姿に日本との文化の違いや憧れを感じた」と語る。こうした女子生徒の活躍の積み重ねが、工学分野にも進出する女子生徒が増える推進力となり、医歯薬系に偏り気味の進路選択も多様化していくことを期待したい。
(文/菅原淳子)
マイナスの環境で、
生徒たちは知恵と工夫で独創性を発揮する
桐朋中学校 電子研
Electronic Research Club
「誰もまだ見たことのないもの、改造前とは似ても似つかないものを作ること」をモットーとするモノづくり集団・電子研の始まりは、中1クラスで行ったラジカセの解体だった。当初は教員と解体に興味を示した有志3名での“遊び”だったが、電子工作好きが自然に集まり、有志研究会へと発展。公認団体ではなかったため、予算も部室もない中での活動だった。
しかし、このマイナスともいえる環境が、逆に生徒たちの知恵と工夫と独創性を開花させる。廃材を集めて解体し、部品や機構を再利用。生徒たちは廃材の解体から機構を学び、廃材を活用して新しい“製品”を創造していく。千馬隆志教諭は「解体で内部機構を直に見る経験は、工学を体感するよい機会。工学の応用物に触れ、苦労や失敗を重ね製作する生徒には、教科書の知識だけでない『野生育ち』の強さがある」と語る。つまり電子部品や機械機構の知識は、最初に現物を見て触って獲得し、それにテキストやネットの学術知識で補強する。机上で完結する温室育ちの知識ではなく、本物・実物から学んでいく野生の知識だ。
さらに特許技術が網羅された機械の内部機構は、無駄を削られ、工夫が凝らされた先人の芸術品であり、それを鑑賞することは最良の学び、と言える。お金をかければ当然、良いものは作れる。しかし、あえて費用をかけないモノ作りに挑戦することで創意・工夫が凝らされる。廃材の部品でいかに面白いものを作るか、そこに生徒たちは魅せられていく。知識を備えたうえで製作に臨む際に最も重要なのはアイデアであり、自分のアイデアを盛り込むことが創造力やチャレンジ精神を培う。さらに企画力、組織作りなどの能力も鍛える。
製作品もユニークだ。プリンターを改造した射的マシーン、桐朋祭で廊下を宣伝して走る自律式ロボットやカードを使って自動開閉する入場ゲード、コロナ禍ではアルコール消毒液のディスペンサーなど。またソレノイドコンテスト (2020年)、 Maker Faire Tokyo 2021オンラインプレゼンテーション、モノコトイノベーションでは大賞、東京ビッグサイトで開催されたMaker Faire Tokyo 2022でも特別賞を受けた。
そして2024年4月、電子研は同好会へと昇格した。この3月、各方面から賛辞を送られた78期卒業生Tさんの答辞に『電子研は78期の学びある笑いの象徴でした』とある。生徒が内に秘めた力を縦横に引き出す電子研の活動はこれからも注目だ。
(文/松岡理恵)
飽くなき実験への挑戦が、
真実を追求する姿勢を育む
巣鴨中学校 化学部
Science Club
“少年は可能性のかたまり”という考えのもと、勉学はもちろん、生徒たちの自由奔放な好きなことへのチャレンジを応援する巣鴨中学校。化学部でも各部員が興味をもったテーマ実験を自由に追究し、「化学を楽しむ」「化学の楽しさを社会に広める」をモットーに活動している。
他校交流や高大連携を意識した発表会も実施。自分たちが上手くいかなかった実験を他校が平然と成功させることもあるが、それが部員たちにとって大きな刺激となる。また、小学生向け実験を通して科学の魅力を広く伝える活動を行う『サイエンスリンク』にも参加するほか、化学オリンピックや外部コンクールへチャレンジする部員もいる。なかでも文化祭での実験はビッグイベントだ。部員は「直接、来校してくれた小学生に実験の魅力を教えられるので楽しい」と口を揃える。小学生時代に文化祭で化学部の実験を見たことが同校受験の端緒となった部員もいるだけに気合が入る。
部員たちは、とにかく実験が大好き。中1では先輩の指導を受けながら一緒のグループで実験に慣れてもらい、中2からは各自好きな実験を行う。興味深いのは、化学部に先輩から後輩へと歴代部員に読み継がれてきた『実験による化学への招待』という化学実験のバイブル。全米で行われた数々の演示実験で、特に安全で楽しく、化学の重要な概念の修得に適したものをまとめたものだ。表紙文字ははげ、背表紙もガムテープで補修されながらも使い込まれたその姿に化学部の実験への情熱が垣間見える。そのほか海外からから配信されるYouTube動画で面白そうな実験を探し出し、チャレンジすることもあるという。さらに先輩たちが独自に実験し、作った『実験レシピ』も年々蓄積されている。このノートには、“やってはいけない実験”も記載されており、部員たちは「科学と社会的責任」も自然と学んでいく。
部員の研究テーマは、低融点合金に含まれる金属成分の混合比を調整し、各金属成分の混合比と融点との相互関係について調べる「低融点合金」、加熱条件や冷却条件を変更し、ビスマスの人工結晶の色合いや大きさの違いを比較する「人工ビスマス結晶の成長」、そのほか「飲料の硬度測定」「タピオカの再現」など多岐に渡る
化学実験を通じ「教科書に載っていることが絶対ではないことがわかります」と笑顔で語る部員たち。幅広い化学部の活動を通じ、多角的な視点を身につけ、目標に掲げる「化学で世界を豊かにする」の実践に向けて部員たちは今日も研鑽を続けている。
(文/松岡理恵)
部員でない生徒にも門戸を開くことで、
埋もれた才能を開花させる
海城中学校 数学部
Mathematics Club
これまで2名が国際数学オリンピック日本代表に選出され、そのうち1名は銀メダルを獲得するなど数々の輝かしい実績を誇る数学部。競技数学以外でも財団法人理数教育研究所主催の「算数数学の自由研究コンクール」で大賞、奨励賞をそれぞれ複数回受賞し、大学教養学部レベルとされる数学検定1級取得者も複数名、2級以下の取得者は多数在籍する。さらに数学界の権威ある欧州の査読付き名門数学誌『NNTDM(Notes on Number Theory and Discrete Mathematics)』に当時高3の部員3名による共著論文が掲載されるという快挙も果たしている。
現在、27名の部員が在籍し、週1回の定例会をベースに活動する。数学オリンピックをはじめとする「競技数学対策」や「各種コンクールへの参加・雑誌投稿を行う数学研究」、「自由研究の発表を行うゼミ形式の輪講」の3グループに分かれ自由に数学の世界を仲間と共に楽しむのが基本だ。だが、時にそこを離れて、部員が興味を持った中学入試算数問題の研究や、数学検定について触れることもあるという。また、OBや国内外の他校との交流も盛んだ。特にOBは後輩のためにOB自身の研究における興味関心、プレゼンテーション方法ならびに、数学研究上の作法のレクチャーのほか、数学オリンピックで実績のあるOBは、学期に2回程度、数学オリンピックでハイスコアを目指すための指導に来校するという。
数学部の輝かしい成果は、授業や数学科講座、部活動を通じた日々の取り組みが実を結び国際レベルの才能を引き出したことは間違いない。そして、このことは海城の数学教育レベルの高さのひとつの証明ともとらえていいだろう。前述の『NNTDM』に掲載された共著論文のアイデアも中学生時代に著者生徒らが数学科リレー講座の『フーリエ誕生250周年記念』に参加したことが端緒だったという。
その上で注目すべきは、部員でない生徒にも積極的に門戸を開く数学部の開放性だ。このことが、海城生の数学力向上に大きく貢献している。そこには「機会がないがゆえに優れた数学の才能を眠らせたまま大学へ進学してしまうのは非常に惜しい」という数学科教員たちの思いがある。例えば自主的に数学研究に取り組む生徒、授業やリレー講座で光る才能が垣間見えた生徒には個別に声をかけ、数学部での発表の機会を提供することで才能開花の機会につなげているという。このように数学部は、海城全体の数学力のレベルアップ、才能開花を促す重要な拠点としての役割も果たしているといえるだろう。
(文/松岡理恵)