桐朋中学校

左から高橋さん、吉澤さん、豊田さん
左から高橋さん、吉澤さん、豊田さん

困難に直面しても負けない生徒たち。知恵と創意工夫で逆境を乗り越えろ!

【注目ポイント】

  • 自由闊達な環境の中で、それぞれの興味関心のある物事に果敢に挑戦。
  • 各自の目標に向かい自主的に考え工夫し努力を重ねることを促す指導。
  • 自分のやりたいことを素直に伝えられる教師と生徒の関係性。

国内外で活躍を果たす桐朋陸上競技部

「自主・敬愛・勤労」を教育目標に掲げ、生徒一人ひとりの自主性を養うことを実践してきた桐朋中高。自ら判断し行動することが求められ、一人ひとりの個性を互いが尊重する気風も溢れる。生徒たちは自由な環境の中で、各自の興味関心のある物事に果敢に挑戦している。

難関国公私立大や医学部などへの合格者を多数輩出する進学校として知られる同校だが、部活動においても全国レベルでの活躍を見せている。特に近年は陸上競技部の活躍が顕著で、昨年は24年ぶりに卒業生がオリンピアンとなった。しかし同校には運動能力の高い生徒を集める制度はない。陸上で活躍する生徒たちも一般入試を突破し、在学中も一定以上の学力を身につけることが求められる、まさに文武両道を体現した生徒たちなのだ。

陸上競技部では、スポーツ強豪校のような画一的なトレーニングはしないのも特徴だ。日本一や世界レベルの成績を目標とする部員ばかりではなく、それぞれの目標に向かって各自が練習に取り組み、それを部員同士が理解し合い、互いのスタンスを受け入れている。顧問の外堀宏幸教諭も、できる限り個別に対応して練習メニューを組むが、自主的にトレーニングに取り組む余白は残し、生徒が指導者の意見を鵜呑みにせず、目標に向けて自ら考え工夫し努力を積み重ねることを促しているという。

ここからは卒業生3名の部活動や勉強との両立の様子などを紹介していこう。

制限された条件下での奮起

慶應義塾大学環境情報学部に進学した豊田兼さんは400mハードルでパリオリンピックに出場を果たしたオリンピアンだ。桐朋小学校時代から陸上のクラブチームに所属していた豊田さんだが、実は高2までは同世代でトップ争いをしたり、記録を残すような特別な選手ではなかったという。転機となったのは高3時の世界を席巻したコロナ禍での経験だった。「当時は競技場がすべて閉鎖され学校にも立ち入れず、練習する場所もありません。体力維持のために自宅近くの公園を転々とし、遊具を活用して独自のトレーニングを続けました。それでもインターハイという高校最大の目標がなくなったのは大きく、モチベーションを保つのが難しい時期でした」と豊田さん。その時は、思い切って一旦練習を止めて陸上からあえて距離をとった。そして「陸上が恋しくなった時に再開し、またとことん向き合うことで気持ちの切り変えができましたし、より集中できたと思います」と語る。

そんな豊田さんにチャンスが訪れたのが2020年8月。国際大会ゴールデングランプリの開催だった。各競技に全国の高校生から1〜2名、トップアスリートと一緒に競える特別枠が設けられたのだ。「これは大きなモチベーションになりました。そこからは外部の競技場で、先生に来ていただいたり、メールでのやり取りをしながら練習しました。同期は引退して受験勉強を始めていましたから、一人で練習する期間が長かったですね」と豊田さん。そんな孤独な練習を積み重ねた結果、無事ゴールデングランプリに出場し、自己ベストをマーク。このことが「もっと上を目指したい」という気持ちを高め、大学での国際大会優勝、オリンピック出場の快挙へと繋がった。苦しかったコロナ禍での経験も「恵まれた環境で練習する今」が当たり前ではないのだと感謝する気持ちにつながったという。

大学では、スポーツを科学的・力学的な視点で捉え、競技力の向上、コーチング支援を科学的な知見を元に行なうスポーツ科学を研究、卒論を作成して今春卒業した。

陸上選手も練習に励むグラウンド
陸上選手も練習に励むグラウンド

逆算思考の練習で目標を達成

慶應義塾大学商学部に進学した高橋諒さんは、高校時代から八種競技の選手として活躍。高1、2と全国高校総体で優勝し、高3では高校日本記録を樹立。昨年はU20世界選手権にも出場した。

小学生時代から足は速く様々な大会で活躍し、中学受験勉強をしながらも小5までスポーツは続け、桐朋に入学した。「練習方法はまず自分で考え、先生にアドバイスをもらい、再度検討して実行していました。目標設定後に逆算方式で、各段階でやるべきことに優先順位をつけて実践しています」という高橋さん。これは陸上だけでなく勉強においても同様だという。

競技と勉強の両立については、部活で減る勉強時間を「通学時間はもちろん、入浴時もプリントを入れた密閉袋を浴室に持ち込むなど隙間時間をフル活用して工夫しました。勉強が辛いなと思った時は、自ら興味を持てるようにしましたね。興味がなかった地理も地図帳を広げて『ここに行きたい!』と思った場所は、徹底して調べると、どんどん興味も湧いてきて地理が面白くなり、点数も伸びました」と笑う。

理系だったが、株に興味を持ち始め、商学部へ進路を変えた高橋さん。将来は「金融の世界で働きたい」と語った。

校舎の屋上は生徒たちの憩いの場
校舎の屋上は生徒たちの憩いの場

自分が納得できる根拠ある練習

陸上競技部のキャプテンを務め、今春東京大学理科一類へと進学した吉澤登吾さんは、800m走でU18陸上競技大会(高2)、U20陸上競技大会(高3)で共に優勝し、U20世界選手権にも 出場した輝かしい成績を誇る。

遠い目標設定ではなく、目に見える一歩先の目標を一つずつクリアし、それを繰り返すことが大切だと語る吉澤さんの練習法のモットーは『根拠のない練習はしない』。辛い思いをするなら、自分が納得した練習をしたいと言う。「自分を納得させるためにもネットや書籍での情報収集はもちろん、外堀先生や競技会の合宿で出会ったコーチなどを含め様々な人に直接会って話を聞くようにしました」と吉澤さん。その対象は教科学習にも及び、吉澤さんが選択科目とする物理・化学も応用できるものは採用した。乳酸の知識や呼吸した際の体内酸素の知識は、生物を選択科目にする友人から学んだ。「走りは非常に複雑ですので、絶対的な練習方法はありません。ただ、今持っている知識を論理的に組み合わせた練習は、自分にとって納得できるものだと思っています」。

そんな吉澤さんにも怪我で苦しい時期があった。「あの時は『トップを目指すのではなく楽しもう』と決めたことで、気持ちが楽になりモチベーションが維持できました」と語った。外堀教諭は吉澤さんの練習メニューについて「高2頃から彼の話す内容・感覚が私の理解を超えてきたため、内容は確認しますが、本人に任せていました」と教え子の急成長ぶりに目を細める。

このように陸上競技部の躍進は外堀教諭の「主体性の尊重」や「結果を急がない指導」も大きい。高橋さんも「やらされているのではなく、やりたいからやる環境だったことが成長できた大きな理由」と語り、豊田さんも「結果を求められる強豪校とは違い、楽しく陸上に向き合える自由な環境だった」と振り返る。

桐朋の魅力を彼らに聞くと、「競技を離れ教室に戻れば、それぞれ頑張っているものを持ち、それを互いに尊重し合える仲間がいます。本当に自由にやりたいことをやれる学校です」と豊田さん。高橋さんは「職員室に生徒が自由に出入りするほど先生との距離が近く、自分のやりたいことを素直に伝えられる関係を築けます」。吉澤さんも「生徒の気持ちを察知し、時には見守り、時には手を差し伸べる。そんな生徒が望む通りの対応をしてくれる先生方の存在が魅力です」と教えてくれた。

学校データ(SCHOOL DATA)

所在地〒186-0004 東京都国立市中3-1-10
TEL042-577-2171
学校公式サイトhttps://www.toho.ed.jp/
海外進学支援
帰国生入試
アクセス国立駅(JR中央線)徒歩15分
谷保駅(JR南武線)徒歩15分
国内外大学合格実績(過去3年間)東京、京都、東京科学、一橋、北海道、東北(医)、大阪、九州、東京外国語、東京藝術、筑波(医)、千葉(医)、弘前(医)、信州(医)、横浜市立(医)、名古屋市立(医)、東京都立、慶應義塾(医)、早稲田、上智、順天堂(医)、東京慈恵会医科、日本医科、エジンバラ、ダラム、カリフォルニア(サンディエゴ)、台湾など

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「出会い」が生徒たちを大きく変える。様々な人や未知の世界が溢れた学校

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