人間力を発揮してチームの力を結集 自ら変革し挑戦するリーダーが未来を拓く

細木 聡子

ほそき あきこ

株式会社リノパートナーズ 代表取締役

<Profile>

筑波大学卒業後、NTTに入社。自分らしさを大切にしたマネジメントスタイルで部下との信頼関係を築き、チーム成果最大化を実現した。10年の管理職経験を経て、2018年に人材育成コンサルティング会社(株)リノパートナーズを設立。これまでに4,000人の人材育成に携わる。NTTでの経験で培った独自のマネジメント法をベースに、技術系企業のジェンダーギャップ解消を突破口としたDE&I経営の推進支援を行っている。

Profile Picture

『女性管理職のためのしなやかマネジメント入門』を著すなど人材育成コンサル分野で活躍する細木聡子さん。 NTTの女性管理職としての経験を当事者として生かし、経営者にはよきメンターとして、マネジメント職には 気づきを与える「しなやかリーダー塾」の講師として、自発的に動ける組織づくりに日々挑戦し続けている。 次代の鍵を握るのは変革と挑戦を恐れない人間力に満ちたリーダーであるという細木さんに、お話しを伺った。

(文/高島正人

「D & I からDE & I へ

みなさんはD & I(ダイバーシティ&インクルージョン)という言葉を見聞きしたことはありますか?

国際化の進む現代では多種多様な経営戦略が求められています。「ダイバーシティ(多様性)」は1960 年代にアメリカで生まれ、日本では1980 年代に認識され始めた概念です。男女雇用機会均等法の制定された頃ですね。雇用機会の均等化で女性にも活躍の場が拡がり、性別を問わず発揮されるリーダーシップが組織の活性化と生産性の向上をもたらすと期待されたのです。「インクルージョン(包摂性)」は訳語を見ても少し難しい概念ですが、D & I を簡単に言えば「多様性が組織や社会に受け入れられているだけでなく、十分に生かされている状態にある」ということになります。

ここに「エクイティ(公平性)」を加えたのがDE & I。これはD & I の実現を受け次は公平性を目指そうというよりは、包摂的な多様性を実現するには公平性も必要と気づいた、と解釈するのが正確です。つまり多様性は包摂性をって初めて成果を生むと気づいたのがD&I、さらにすべての人たちが活躍できる公平な土壌がないとD&I は実現しないと気づいたのが今、ということ。裏を返せばD&I の実現がまだ十分ではなかったからこそのDE&I なのです。

女性活躍の推進、その実情は・・・

具体的な例をご紹介しましょう。私は多様性推進の一環として女性管理職育成のご相談を受ける仕事に携わっています。かつてある企業から「女性管理職の多様化はもうやりきった。今は身体の不自由な方や外国籍の社員活用が主なテーマだ」と伺いました。ところが今年になって同じ企業から「女性が管理職になりたがらない。動機付けになる研修を開いてほしい」とご依頼をいただいたのです。実際、受講者の意識は10 年前と変わっておらず、むしろ後退しているのではないかとさえ感じました。やりきったどころか、多様性実現の突破口となる「女性活躍の推進」さえままならない状況が続いていたのです。技術系企業で男性管理職比率の高い会社は、今もまだまだ変わることができていないことを実感させられた出来事でした。

女性管理職の育成が進まない主な原因には、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)が挙げられます。先ほど触れたエクイティとも関連していて、例えば仮に本人がもっと働きたい、より大きな仕事に関わりたいと願っていても、「育児中だからできるだけ業務を軽くしてあげないと」など、経営者や上司がよかれと思って制限してしまい、結果として機会の公平性を欠くような事例が象徴的です。一方の女性側にも無意識にバイアスがかかっていて、仕事も家庭も大事にしたいけれど、自分は女性だからまずは家庭のあれこれをちゃんとしなければいけない、できないのは自分がダメだからだ、と思い込んでしまう傾向があると、仕事におけるチャレンジ意欲がなくなってしまいかねません。

思い込みを正すのは容易ではありませんが、ここを変えないと次のステージには進めません。どのようにしたら変えていくことができるのでしょうか。

求められるのはリーダーの人間力

変化を厭わず挑戦する意欲は、現状を打破して前に進むために性別を問わず持っていたいもの。自分だけよければいい、言われたことだけやればいいという受け身の姿勢では、充実した私生活も仕事も遠ざかってしまいます。

新しい方法で生産性を上げる、これこそがあらゆる分野で必要とされています。より多くの人々が前向きな思考になれば、日本の経済状態も含めて様々な課題を解く端緒をつかめるのではないでしょうか。それには方向性を示し、自らの働く姿を通じて成功への発端を周りに気づかせるリーダーが必要になってきます。

ヒントはMIT のダニエル・キム教授が提唱する『成功の循環』にありました。チーム内の人間関係が深まり相互信頼(関係の質)が高まれば、課題解決の考えの幅や深さ(思考の質)も高まり、素早く的確な実行(行動の質)に繋がって、導かれる結果の質も高くなる、この好循環が互いを認めて高め合う土壌を育み、成果を生み出すという考え方です。

逆によい結果が出なければ関係はぎくしゃくして、ますます成果が出にくくなってしまいます。まさに今の日本を見るような悪循環を断ち切る鍵は、ひとえにリーダーの人間力である、と私は考えています。

好循環のスタートはチームの良好な関係性。リーダーこそが関係の質を高める起爆剤になり得る存在です。解決すべき課題に自分ごととして対峙し、新しい発想で仕事を進める姿をチームに見せる。この「見せる」というのがポイントで、人間は人から言われたことには反発しがちですが、自ら気がついたことには能動的に取り組むものだからです。当事者意識を芽生えさせ、「自分もこうなりたい」「自分にもできそう」と自ら行動を起こすようにできれば、周りにもよい影響が拡がっていきます。ボウリングのピンが時間差でパタパタと倒れていくように、やがて組織としての「ストライク」が出るという波及効果が理想的ですね。チームを取り巻く状況や構成員一人ひとりが持つ強みは常に異なっています。それぞれの多様さを大切にしながら、みんなで知恵を出して新しいことを生み出していくのが最適解。これこそが真にDE & I の発揮された状態です。

大きなことを言うようですが、私自身も経営者というリーダーとして、「しなやか姿勢」と名付けた変革し挑戦する姿を示しながら、高めた人間力を周りに伝え、社会によい影響を及ぼしていくことを自らの使命と考えて、実行しています。

これから深い学びを経て、活躍の場へと歩み出す未来溢れるみなさんが、それぞれの分野で好循環をもたらすリーダーに育ってくださることを期待しています。

お問い合わせ

名称株式会社リノパートナーズ
所在地〒102-0085 東京都千代田区六番町15-2 鳳翔ビル4階
公式サイトhttps://linopartners.co.jp/
E-mailinfo@linopartners.co.jp
その他チームを活性化させて会社成長をもたらし次世代リーダーを育成する「しなやかリーダー塾」

【関連情報】

コンセプチュアルスキルを身につけた、しなやかリーダーが起こすイノベーション

“D&I”時代にイノベーションを起こす組織とは―。体験から生まれた「しなやかリーダー論」

女性活躍推進だけではイノベーションは不十分 新しい女性リーダーが目指すべきは“D&I”