“D&I”時代にイノベーションを起こす組織とは―。体験から生まれた「しなやかリーダー論」

細木 聡子

ほそき あきこ

株式会社リノパートナーズ 代表取締役

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筑波大学卒業後、NTTに入社。自分らしさを大切にしたマネジメントスタイルで部下との信頼関係を築き、チーム成果最大化を実現。10年の管理職経験を経て、2018年人材育成コンサルティング会社・(株)リノパートナーズ設立。これまで延べ3300人の人材育成に携わる。NTTでの経験で培った独自のマネジメント法をベースに技術系企業のジェンダーギャップ解消を突破口としたダイバーシティ経営の推進支援を行っている。

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少子高齢化・労働力人口の減少・変化が激しく先が読みにくいVUCA時代においてこれまでにない付加価値、イノベーションを絶えず創造していくことが求められる日本企業。そして、このイノベーションに不可欠なのがD&Iだという。「この認識をより多くの人々が共有することが大切であり、そのためには“しなやかな姿勢”を持ったリーダーが必要」と語る細木聡子さんに、D&I時代のリーダーについてお話しを伺った。

(文/松岡理穂)

今求められている“D&I”の実現にはまだまだ遠い現実

これまで男性管理職8 割超という技術系企業で26 年間働き、SE 管理職10 年、SE部門人材育成担当3 年を経験してきました。独立後の現在は、その経験を活かして技術系企業のジェンダーギャップ解消を突破口としたダイバーシティ経営の推進支援を行っています。

現在の日本企業における最大の問題点のひとつとして、イノベーションを起こせなくなったことが挙げられます。そして、このイノベーションを起こすために必要なのが“ D&I ” です。D&Iとは、ダイバーシティ&インクルージョンを意味し、多様性を組織の一人ひとりが認識して受容し、尊重することにより、個人の力が発揮できるよう職場環境などを整えることです。性別、人種、年齢をはじめ、その人の個性や得意不得意分野を問わず、多様性を尊重すること。それによって、お互いの特性が引き出されて融合し、相乗効果によって新しい知恵が生まれ、結果として、これまでにない組織の成長や発展へとつながっていくのです。

5年前には、誰もが新型コロナウイルス感染症が拡大し、リモートワークが推奨される社会になることなど考えてもみなかったことでしょう。このような予測不可能なVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)時代を生きる私たちにとって、個々の違いを受け入れ、認め合い、活かしていくD&Iは必要不可欠であることは間違いありません。世界的にも社会の趨勢としても確実にD&Iは常識となりつつあります。

依然としてマイノリティの立場を脱していない日本企業の女性管理職の数は2016年の女性活躍推進法の施行により緩やかに増加しています。また、働き方改革として、産休制度、育休制度、時短勤務制度、介護休業制度など、さまざまな事情を抱えた人々の労働を維持するための制度導入を取り入れている企業もめずらしくなくなりました。このように数字や制度など表面的には改善の兆しを見せています。しかし、D&I実現にはまだまだ遠いということを肌で感じています。つまり、ハード面での担保は進みましたが、ソフト面は旧態依然のままで、その内実は、これまでと大きな変化がないのが実情なのです。

これまでマイノリティとしての女性管理職育成に従事し、大きな課題だと感じたのが、男性と女性では仕事に対する価値観に違いがあるという点です。これまで圧倒的な男性社会であった日本企業において、特に管理職を含めた上司にはこの点の理解と共有が不足していると言えます。例えば、女性管理職に男性的なリーダーシップを求めても多くは失敗に終わります。理想のロールモデルがいなければ、女性自身がキャリアアップのイメージができず、有能な人であっても「管理職になりたくない」と自ら辞退を申し出るケースも実際に起きているのです。  それではマイノリティである人々が成果を上げるためにはどうしたらいいのか。それは、やはり組織全体としてD&Iの実践に帰結するのです。

管理職時代に経験した部下の強みと得意を引き出すことで得た大きな成果

かくいう私自身も管理職時代には理想のロールモデルが存在せず、他の管理職同様に残業が続く激務の日々を過ごしていました。当時は、自分には合わないと薄々理解しながらも、部下をエネルギッシュにリードする管理職があるべき姿だと思い込んでいました。

そんな折、親の介護が重なり休日までもフル稼働しなければ仕事も家庭も立ち行かないという状況に陥りました。体力も限界となり、このままではとうてい仕事は続けられません。

自分が当事者となったこのとき初めて、自分を変え、職場のシステム、環境を変えようと決意しました。当時の部下は3名で、それぞれが個性的な資質とこだわり、そして得意、不得意を持ち合わせていました。私がまず行ったのは、「残業はゼロにする」という部下に対する決意表明でした。なぜ残業をゼロにしたいのか、目的達成のためには部下の協力が不可欠であることを伝えたうえで、一人ひとりと個別に面談し、残業をゼロにするためのアイデアを募りました。これと同時に仕事に対する考えを詳しく聞き出し、どんな業務ならやりがいを感じるか、どうしたら個々のパフォーマンスを最大限に活かせるかなどを共に考えたのです。さらに業務のスリム化のため、上司である私への説明資料を不要とし、稟議書や決裁文書の事前確認も思い切って廃止しました。部下に全幅の信頼を置き、何かあったら私自身がすべて責任を負うと決意し、部下が提出する書類などのアウトプットは、60%以上に仕上がっていれば通すと決めました。

また、部下の資質やこだわりを理解し、彼らが充足できる業務をマッチングさせて、仕事の成果のみならず、仕事のやりがいを引き出すことにも力を入れていったのです。

こうした取り組みの結果、私たちのチームは「残業0、成果2倍」を達成することができました。当時の上司を含め、精鋭揃いの部下を率いる男性管理職の同僚が、この功績を高く評価してくれたことは素直に嬉しく思いました。また、部下からの「信頼されていると思えたからこそ、3人で協力してミスを減らし、少ないコストで高い成果を上げる努力をした」という言葉が強く印象に残っています。そして、一人ひとりの得意を引き出し、きめ細かくサポートする支援型のスタイルこそが、私があるべき姿なのだと気づいた瞬間でもあったのです。

“しなやか姿勢”を持ったリーダーがD&Iの組織風土を創造する

D&I の組織風土の中、イノベーションを起こし続ける──。これが企業や組織が、これからの時代に勝ち残るカギとなるのは間違いありません。そして、企業変化の突破口として提案しているのが“ しなやか姿勢” を持つリーダーです。しなやか姿勢とは、『どのような環境・条件の中でも、柔軟思考で、自らの特性を強みとして最大限発揮して、道を切り開いていこうとする姿勢』と定義しています。男女問わずこの姿勢を持ったリーダーは、周囲へよい影響を与え、組織の成長を加速するキーパーソンと言えます。しなやか姿勢を持った人とは、どういう人なのか、特徴を5つ挙げると以下のようになります。

  1. 起こったことを前向きに捉える
  2. 他者との違いを価値、可能性と考える
  3. まずは自分が今できることに全力で取り組む
  4. やり方は変えても目的はぶらさない
  5. 人・仕事・未来の可能性を信じる

また、先にも述べたように私自身も管理職時代に親の介護という現実を突きつけられ、はじめて当時者意識を持ったというのが本当のところです。管理職や上司がこの当事者意識をしっかり持つことからすべてはスタートします。部下が力を発揮できているか、仕事のやりがいを感じているかなどは面談を含めた話し合いの場を持つ、部下をよく観察することが大切です。

さらに、伝え方も重要になってきます。実際に企業の次期リーダー育成等に直接関わっていると、会社や上司の視点を踏まえて話す・伝えるという意識を醸成することで、これまで停滞していたD&I が一気に進む、という現実には幾度も遭遇しています。立場や役割を超えて、お互い本音ベースで理解し合えることが、D&I の第一歩と私は確信しています。そしてこれが、“ 多様な価値観や働き方を認め合う職場風土の醸成” につながるのです。

「一人ひとりが安心して成長できる社会」を目指し、ひいては日本のD&I 社会の実現につなげていくために、今後も積極的に“しなやか姿勢” を持ったリーダー育成のお手伝いを続けていきたいと思っています。

お問い合わせ

名称株式会社リノパートナーズ
所在地〒102-0085 東京都千代田区六番町15-2 鳳翔ビル4階
公式サイトhttps://linopartners.co.jp/
E-mailinfo@linopartners.co.jp
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