コンセプチュアルスキルを身につけた、しなやかリーダーが起こすイノベーション

細木 聡子

ほそき あきこ

株式会社リノパートナーズ 代表取締役

<Profile>

筑波大学卒業後、NTTに入社。自分らしさを大切にしたマネジメントスタイルで部下との信頼関係を築き、チーム成果最大化を実現。10年の管理職経験を経て、2018年人材育成コンサルティング会社・(株)リノパートナーズ設立。これまで延べ3300人の人材育成に携わる。NTTでの経験で培った独自のマネジメント法をベースに技術系企業のジェンダーギャップ解消を突破口としたダイバーシティ経営の推進支援を行っている。

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『女性管理職のためのしなやかマネジメント』の著書がある人材育成コンサルティング会社社長の細木聡子さん。独自のマネジメント法をベースにリーダーを育てる「しなやかリーダー塾」を開講し、人材育成に力を注ぐ。NTTでの管理職経験で学び得たものを礎にして、イノベーションを起こす組織作りにチャレンジしている。「しなやか」というキーワードにこだわる細木さんに、リーダーに求められる資質とスキルについて聞いた。

(文/富永直美

「しなやか」な姿勢・マインドを持つリーダー

「しなやか」は、どのような環境・条件下でも折れない、ぶれない軸を持ち、自分の特性を強みにして力を最大限発揮し、柔軟に物事を進める姿勢を表しています。例えれば、芯が強く、しなって折れない竹のようなイメージ。これからの時代は、この「しなやか」という特性を備えることが男女問わず非常に必要だと考えています。特にリーダーがしなやかな姿勢を持てば、周囲によい影響を与え、組織の成長を加速させるキーパーソンとなるでしょう。

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)時代となり、企業変化の突破口として私が提案しているのが、この“ しなやか姿勢” を備えたリーダーです。変化の激しい時代にこそ、しなやかさは企業のリーダーには特に求められる姿勢・マインドです。

私のNTT での管理職時代を振り返りますと、技術系の職場だったこともあり女性は少数、さらに女性管理職はまだまだマイノリティーで、当時はお手本になるロールモデルも存在しませんでした。

また私自身が失敗を繰り返し、周囲にネガティブな感情を抱かせてしまったこともありました。自身のあり方を顧みて、仕事に対する姿勢をどう変えれば、チームの力を引き出して成果を生み出せるのか試行錯誤しました。そして、リーダー的立場の人は、しなやかさを備えることが重要なのではないかという気づきを得たのです。

最近は、「レジリエンス」という言葉も注目されています。回復力や復元力といった意味ですが、逆境でも自分の軸を持ち、自らの特性を強みとして発揮しつつ切り開いていこうとする力、まさに「しなやかに困難を乗り越え、回復する力」なのです。

コンセプチュアルスキルを身につける

ハーバード大学のロバート・カッツ教授が提唱した「コンセプチュアルスキル」は「概念化能力」と訳されています。その意味するところは「物事の本質を見極められる能力」で、状況や情報を客観的に分析し、その本質を捉えて最適解を見出す能力を指します。論理的思考(ロジカルシンキング)や批判的思考(クリティカルシンキング)を用いて、課題解決力、戦略策定力、ビジョンを示していくような力を発揮するのがコンセプチュアルスキルです。

もう少し平たく言うと、ある課題について多くの人を納得させられる方針を導き出し、説得すべき相手に伝わるように論点を言語化し、わかりやすいロジックで説明するスキルです。そのためには視野を広く持って、多面的かつ客観的に物事を見ることが必要になります。

事業組織における管理職やリーダー的な立場では、チームの方針や事業計画を策定して予算を確保しなくてはなりません。実現のためには上席を相手に自分の預かる組織の計画を論理的に説明し、最終的に納得してもらう必要があります。同時に説得の根拠や説明内容の裏付けを残しておくことも必要です。これをできないとチームの仕事自体が進まないため、「この人がリーダーではやりたいこともできないし、なにより成果が出ない」と部下を落胆させ、やる気を失わせてしまうことになりかねません。

コンセプチュアルスキルを身につけることで、事業に関係するそれぞれの視点を取り入れることができます。そこから得られる多様な考え方、価値観の融合が相乗効果を生み、イノベーションの源泉となり、会社の成長へとつながっていくのです。

このように有用性の高いスキルですが、研修に参加してくださる男女双方の受講生の様子を拝見するかぎり、女性の受講者の多くがコンセプチュアルスキルを苦手にしてらっしゃるように見受けられます。

同時に、女性が理路整然と話していても、周囲の方々のアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)のために十分に伝わらないという別の可能性もあるのが残念ながら現実です。それゆえに、女性は男性以上に確固たるコンセプチュアルスキルを身につけることが重要になってきます。

では、どのようにすればこのスキルを自分のものにできるのでしょうか。

それには、考え方をインプットすることはもちろん、アウトプットすることが大切です。実際に行動してみて、どこがうまくいったのか、逆にどこはうまくいかなかったのだろうかと振り返り、次に、ではどうすれば期待する成果を得られたのかを考え、再度行動してみます。これを繰り返すことで、次第に知識ではない生きたスキルとして身についていくと考えています。

当社は、ダイバーシティマネジメント力向上や自分らしいリーダーシップの発揮、キャリア開発などについて実践的に学べる管理職育成の専門機関『しなやかリーダー塾』を主宰しています。コンセプチュアルスキルを養成するために、多様な考え方を仕事の場面で意識して実践してもらい、プレゼンによって周りをうまく巻き込み、望む成果を生み出していくというプロジェクト型の研修で、インプットとアウトプットの経験を積むことのできる仕組みです。

「仮説を立てて考える」を習慣化する

研修の際に受講者にお伝えしているのは、「仮説を立てて考える」こと。日常生活を送るなかでも仮説を立てるトレーニングを続けていると、コンセプチュアルスキルを身につける大きな助けになるからです。

20代の頃、同期の男性社員とお昼の社員食堂へ行ったときの話です。その日に限って長い行列ができているのを見た同期は「もしかしたら◯◯なことがあったから今日は行列ができているのでは?」と言いました。仮説を立てて原因を探ろうとしたのです。彼が普段から物事をそういうふうに見ていることに驚いた私は、これは仕事にも活かせるのでは、と思いました。

仮説を立て、推論を重ね、資料を作る。するとそれまで私の資料にダメ出しをすることの多かった上司が「この考え方、いいね」と褒めてくれ、私は「仮説を立てる」ことの効果を実感したのです。

こうした実務体験を研修の受講生にお伝えしながら、「例えばスーパーでいつもより安い品を見かけたら、今日は◯◯だから安いのかな、と仮説を立ててみて。世界の動向にも興味を持って判断材料の引き出しを増やし、少しでも広い視点から推測するようにしてみましょう」と話しています。

そんな私も、コロナ禍に直面したときには深く反省しました。日頃から「変化の時代」と言っていたにもかかわらず、不測の事態の想定と備えが足りていなかったからです。コンサルティングには双方向のコミュニケーションが必要不可欠。ウェブ活用や動画研修には限界がありました。設立2年目で大幅な売り上げダウンを経験した私は、この状況をしなやかに打開するにはどうしたらよいだろうと必死で考えました。過去のパンデミックの状況を調べ、分析し、自ら立てたいくつもの仮説を基に、発想を転換しました。自分たちのサービスの本質を提供する手段として研修やコンサルティングがあると考え直し、ピンチをチャンスに変えるため、人材育成の新しい仕組みを生み出しました。揺るぎない価値を確立するとともに、コロナ禍2年目にして業績は上向きに転じ、どんな状況でも折れない、倒れない、しなやかな会社へと再スタートを切ることができたのです。

ビジネスマンは3つの視点を持てと言われます。鳥の目で俯瞰的に全体を見て、魚の目で流れを見て将来のリスクを予測し、虫の目(複眼)で多角的に物事を見る。そして当事者意識を忘れずに徹底的に取り組む。これから進路を考える皆さんも、豊かな将来を実現させるために、様々な方々の話に耳を傾け、情報を集め、自分なりの仮説を立てて取り組まれますよう。近い将来、しなやか姿勢を備えた次代のリーダー候補たちに、社会の現場でお目にかかれる日を楽しみにしています。

お問い合わせ

名称株式会社リノパートナーズ
所在地〒102-0085 東京都千代田区六番町15-2 鳳翔ビル4階
公式サイトhttps://linopartners.co.jp/
E-mailinfo@linopartners.co.jp
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