恵泉女学園中学校

科学の世界を照らすランターンたれ 女子教育のパイオニア校の新しい志
注目ポイント
- 自ら実験をアレンジする「探究実験」で論理的思考を鍛える
- 科学への興味をさらに広げる「サイエンス・アドベンチャー」
- 創立者・河井道から受け継がれる伝統の「学燈ゆずり」
自分たちで計画を立てる「探究実験」
恵泉女学園では、中高一貫校ならではの授業として、中3で「探究実験」という試みを行っている。昨年は「身近な抗菌物質を調べる」「雪の結晶を作成する」「効率のよいカイロを作る」など10テーマがあり、同じテーマの生徒が班ごとに実験を行う。興味深いのは、通常、理科の授業では決められた手順通りに実験を進めるが、探究実験ではテーマをどう掘り下げ、どう実験するかは生徒たちに委ねられている点だ。実験のねらいを明確にし、それを証明する条件や手順、検証、考察をいかに展開していくか、高度な論理的思考が求められる。
取材に応じてくれたAさんが選んだテーマは「霧箱実験で身近な放射線を見る」というもの。予備実験では、放射線源となるモナザイト(モナズ石)を霧箱と呼ばれる特殊な装置内に置き、放射線の一つであるアルファ線の飛跡が絶え間なく出る様子を観察する。ところがAさんの班では、器具の破損により放射線を可視化する霧が発生しないトラブルが生じた。そこでメンバーと手分けして他の班からドライアイスを借り、装置そのものを作り変えることで霧の発生に成功。機転を利かせたリカバリーで事なきを得た。理科の田中裕大教諭は、こうした予期せぬトラブルも生徒自身の気づきを促すきっかけになると言う。「与えられたテーマで実験を行うだけでは、自分なりの疑問やそれを解決する論理的思考が刺激されないことも多い。しかし、自ら考えアレンジした実験では、テーマ設定や目的を証明することの難しさを知り、科学の深淵を体感することができるのです」。この言葉通り、Aさんは今でも霧箱実験装置の原理が頭に残っているという。さらに仮説や予想と異なる結果が出るのは失敗ではなく、原因を探ることで新発見が生まれるという「実験の本質を知ることができた」と話す。

4分野の「サイエンス・アドベンチャー」
こうした実験で興味を刺激された生徒たちは、課外活動である「サイエンス・アドベンチャー」に参加することもできる。授業ではできない研究への取り組みや学外の発表会への参加などが主な活動で、化学と生物、物理、コンピューターの4分野がある。
高2のBさんは、中3のときに全学年対象の特別講座「S-park」に出席してプログラミングに興味を持ち、情報科の清野慎太郎教諭が受け持つ「コンピュータ・サイエンス班」の活動に参加。週2回、C++(シープラスプラス)やPython(パイソン)の言語でシステム構築やロボット作成を行っている。昨年からは同級生2人とプログラマー日本一を決める「日本情報オリンピック」にエントリー。本選出場を目指し、与えられた課題のアルゴリズム設計など様々なパターンの習得を目指して腕を磨いている。清野教諭は「トライアンドエラーを繰り返す中で失敗はつきものだが、それをどう修正するかが重要。その試行錯誤が社会に出てからの問題解決力につながる」と活動のねらいを語る。Bさんはもともと制服のない自由な校風にひかれて恵泉に入学したが、「やりたいことをオープンにでき、それを共有できる仲間や居場所を見つけられて大満足」と笑顔で話してくれた。
90年以上受け継がれる教育理念
科学だけに留まらず、生徒が興味を持ったことを全力で応援する本校の姿勢は創立当初から変わらない。恵泉女学園の創立者、河井道が主人公の「らんたん」は、日本の女子教育の歴史を描いた小説として話題を呼んだ。恵泉では創立以来、卒業式で「学燈ゆずり」のセレモニーが行われているが、これは河井が留学した米国の大学での体験から導入されたものと言われる。学燈(ランターン)は、社会に旅立つ卒業生がどんな場所であってもそこを照らす存在であることのシンボル。どこにあっても“なくてはならない人”として輝く女性の育成をめざした河井の思い。創立以来、連綿と受け継がれている精神である。(文/佐久間香苗)
学校データ(SCHOOL DATA)
所在地 | 〒156-8520 東京都世田谷区船橋5-8-1 |
TEL | 03-3303-2115 |
学校公式サイト | https://www.keisen.jp/ |
海外進学支援 | 有 |
帰国生入試 | 無 |
アクセス | 交通経堂駅・千歳船橋駅(小田急線)徒歩12分 八幡山駅(京王線)よりバス「桜上水二丁目」下車 |
国内外大学合格実績(過去3年間) | 東京、北海道、大阪、九州、筑波、東京農工、東京海洋、東京外国語、東京学芸、東京藝術、千葉、浜松医科(医)、帯広畜産、信州、高知、東京都立、横浜市立、防衛医科、慶應義塾、早稲田、上智、東京理科、国際基督教、東京女子医(医)、杏林(医)、昭和(医)、日本(医)、岩手医科(医)、シドニーなど |
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