芝浦工業大学附属中学校

航空業界が抱える問題を実際に体感するJAL 羽田格納庫見学の様子

「新幹線の生みの親」の精神を今も継承! 社会を変える理工系人材の育成を目指す

【注目ポイント】

  • 「新幹線の生みの親」十河信二の志を継ぐ理工系教育。
  • JAL・東京メトロなど企業連携で実社会の課題に挑む。
  • 豊洲から長野、世界へ探究フィールドを段階的に拡大。

十河信二の志と建学の精神

地域を歩き、企業の現場に入り、社会の課題を自分の手で形にしていく――芝浦工業大学附属中学校の探究学習には、「机の上で終わらせない学び」という一貫した思想がある。豊洲でのフィールドワーク、水陸両用バスで街の成り立ちを捉える地域探究、JALや東京メトロと連携して企業の課題に挑むプログラム。いずれも現実社会と正面から向き合うプログラムだ。

こうした実践重視の姿勢は、最近になって生まれたものではない。原点は1922年に創設された東京鐵道中学校に遡る。創設を主導したのは、のちに「新幹線の生みの親」と称される十河信二。鉄道省の経理課長だった十河は、現場で働く若い職員にこそ幅広い教養と社会的視野が、日本の発展のためには必要だと考え、鉄道大臣に学校設立を進言した。技術を知り、社会に働きかける人材を育てようとしたのだ。この精神は、学校の根幹に今も息づいている。

同校が掲げるのは「世界で活躍し、世界を変える理工系人材の育成」。その理念を具現化したのが、2021年にスタートした独自プログラム「SHIB AUR A 探究」だ。PBL(問題解決型学習)を軸にした「IT(Information Technology)」「GC(Global Communication)」「総合探究」の3本柱で構成され、共通テーマは「理工系の知識で社会課題を解決する」。

入学直後のガイダンスでは、校長自ら十河信二の足跡を語り、高入生は熱海の丹那トンネルを訪れて難工事の現場を体感する。先人への敬意と技術への姿勢を学ぶことから、この学校の学習は始まるのだ。

東京メトロ出前授業の様子

企業と挑む実社会の課題解決

「IT」は、中1でプログラミングやドローン制御、3DCAD、動画編集といったICTスキルの基礎を幅広く体験するところからスタートする。ただし、同校の目標は単なるスキル習得にとどまらない。合言葉は「誰かのための“新しい”を創る」。その「誰か」を実在の企業に設定している点が、この授業の核になる。

中1ではJAL(日本航空)や日本科学未来館と連携した授業を実施している。JALでは全4回の授業を展開。初回にJAL社員から、「予備機を減らすには」「定時運行の改善策」「機内の飲食物在庫を効率的に把握する方法」といった各部署のリアルな課題が提示される。JALの格納庫見学で航空業界の現実に触れた後、生徒たちは解決策をまとめ、JAL社員の前でプレゼンに臨む。あるグループは、機内食にバーコードを付けてiPadで残数をリアルタイム管理するシステムを提案。課題整理からメリット・デメリット分析まで体系的に組み立てた思考プロセスが評価された。理科主任の小川賢一郎教諭は「中学生ならではの斬新な発想を企業側も期待している。大人の常識に捉われない発想が企業にとっても大きな刺激になっている」と語る。

日本科学未来館との連携では「未来館に来たくなるCM動画」を1人1分で制作し、最優秀作品は公式SNSに掲載される。館全体を紹介するのではなく、科学コミュニケーターの魅力にピンポイントで焦点を当てた作品が生まれるなど、中1とは思えない着眼点が見られた。

中2になると舞台は東京メトロへ。各部署の企業課題が生データとともに提示され、コスト試算や人件費まで踏み込んだ現実的な解決策を求められる。過去には、駅ホームに風鈴を設置して電車の風圧で体感温度を下げ、冷房の電力消費を抑える案が、企画会議の最終選考まで残ったこともある。斎藤貢市教頭は「東京メトロの方には生データの提供だけでなく、企業努力の実態まで説明してもらっている。知識やスキルが十分でなくとも、生徒は課題解決に向けて自走するようになる」と語る。

豊洲から世界へ広がる探究

「GC」は、フィールドを広げながらコミュニケーション力や課題発見力を磨くプログラムだ。中1は、地元・豊洲でのフィールドワーク「TOYOASOBI」から始まる。イラストレーターに依頼して制作したオリジナルの「探Qマップ」を手に街歩きし、かつてのエネルギー基地から先端都市へと変貌した豊洲の歴史を体感する。

こうした取り組みの一つが、日の丸交通と連携した水陸両用バス「スカイダック」を用いた探究授業だ。教員と日の丸交通が共同制作したオリジナルアナウンスを聞きながら、湾岸エリアを陸と海の両面から学ぶ。海上からは明治時代の防波堤や旧港の痕跡が見え、埋め立てと産業発展の歴史が一望できる。陸上では物流センターや企業施設を巡り、なぜこの場所に特定の産業が集まったのかを考える。斎藤教頭は「中1には講義形式だけでなく、身近な現象にワクワクを感じられる授業を設定している」と話す。学びは「豊洲解剖図鑑」としてスライドにまとめ、7月の「SHIBAURA探究DAY」で発表される。

中2ではフィールドを長野県へ移す。3泊4日の農村合宿では前半2泊を農家での民泊に充て、農業体験を通じて都会とは異なる暮らしを肌で感じる。後半は農業の未来、観光振興、交通インフラ、少子高齢化対策の4テーマに分かれてフィールドワーク。30~40人の地元サポーターが生徒の提案に現実の視点から意見を返す。「最初はSNSで発信すれば解決すると思っている生徒も、『そんなのとっくにやってるよ』と言われ、現実を知ってから本当の思考が始まる」と斎藤教頭。生徒発案のプロジェクションマッピング企画がスキー場で実現した事例もある。30年にわたる地域との信頼関係がこの学びを支えている。

中3の海外教育旅行では、米国シアトルとオーストラリア・クイーンズランドの2地域に分かれ、それぞれ2つのテーマを軸に探究を行う。社会や産業の発展の仕方、自然環境の日米の違いを具体的に比較する中で、「ここまで違っていてよいのか」という気づきが既成概念を揺さぶる。豊洲、長野、そして海外へとフィールドを広げる設計が、視野の拡張にとどまらず、思考と発想の枠組みそのものを組み替えていくのだ。

水陸両用バス「スカイダック」で海陸両面から豊洲を見学し、街の多面的な魅力を発見する

探究の集大成と進化する未来

夏休みには、中学全学年を対象とした「SHIBAURA探究旅行」も行われる。燕三条、琵琶湖疏水、金沢・黒部の3コースが揃い、40名定員に100名超の応募がある人気ぶり。学年縦割りで上級生の視点に中1が刺激を受け、夜の探究ワークでは「探究ワークをしに来た」と語る生徒も。ものづくりと地域の歴史を結びつけた学びは理工系探究の真骨頂といえよう。

中3後半から始まる「総合探究」は、ITとGCの集大成。チームで「社会課題をものづくりで解決できないか」に挑み、プロトタイプの制作までを目標とする。海外教育旅行で知った外来種問題から鯉のハンバーグを開発したチーム、海上で野菜を栽培するプラントの試作に挑む生徒など、テーマは実に多彩だ。

同校は2027年度に大幅な探究カリキュラム改定を予定しているという。「世の中の変化が早過ぎて、マイナーチェンジでは間に合わない」と斎藤教頭。先行してきた探究教育が広く共有されつつある今、次の段階への移行を見据える。「本校の教育は大学合格がゴールではない。社会課題に立ち向かう勇気やものづくりへの気概を育むことを何よりも大切にしています」。十河信二が約100年前に抱いた「職員にこそ教養を」という願いは、形を変えながら今もこの学校の教室に息づいている。

学校データ(SCHOOL DATA)

所在地〒135-8139 東京都江東区豊洲6-2-7
TEL03-3520-8501
学校公式サイトhttps://www.fzk.shibaura-it.ac.jp
海外進学支援
帰国生入試
アクセス豊洲駅(東京メトロ有楽町線)徒歩7分
新豊洲駅(ゆりかもめ)徒歩1分
国内外大学合格実績(過去3年間)芝浦工業、東京、京都、東京科学、北海道、東北、大阪、九州、神戸、筑波、東京農工、電気通信、千葉、横浜国立、新潟(医)、金沢、広島、琉球、東京都立、防衛医科、防衛、慶應義塾、早稲田、上智、東京理科、帝京(医)、杏林(医)、明治、青山学院、立教、中央、法政、学習院など

【関連情報】

理工系の力で社会の難問に立ち向かう。実現できる方法を考え抜いて道を開く
テクノロジーを活かした未来創造力で、社会課題の解決にチャレンジ

芝浦工業大学附属中学校の教育