様々なキャリアを積み重ねてスキルを習得し、小学生時代の興味をOECDで追い求める
山﨑 翔
OECD(経済協力開発機構) ジュニア政策分析官
<Profile>
東京大学工学部卒。日本にて監査法人トーマツおよびBain & Company(経営コンサルティング)勤務の後、ハーバード大学ケネディ行政大学院にて公共経営学修士、MITスローン経営大学院にて経営学修士課程を修了。同留学中に、パリにある経済協力開発機構(OECD)にてインターンシップ参加。現在、JPO派遣制度を通じOECD環境局に勤務し、OECD加盟国の環境保全成果レビューに取り組む。
幼い頃に抱いた環境への興味や問題意識を「自分の軸」として常に持ち続け、社会に出てからも異なる視点で一段一段キャリアチェンジをはかってきた山﨑翔さん。専門性を高めるために選択した就職や留学には、どんな意図があったのか。パリに本部を置く国際機関OECDに就職するまでの道のりを詳しく伺った。
(文・佐久間香苗)
外資系企業で資本社会の構造と問題解決に役立つスキルを体得
環境問題に関心を持ち始めたのは小学生の頃。近い将来に石油が枯渇するかもしれないという予測を宿題で知り衝撃を受ける一方、社会的には大きく報じられていないことに違和感を持ったのがきっかけです。もともと動物好きで、純粋に生物多様性に関心があったことも理由の一つです。
大学は工学部に進み、環境・エネルギーシステムを専攻。多くの研究室で再生可能エネルギーの研究が進むなか、太陽光発電が普及しないのは技術的な問題ではなく、むしろ高過ぎる太陽光パネルの価格設定など、市場や経済がネックであることを痛感。資本市場の仕組みを理解しようと考え、在学中に取得した公認会計士の資格を生かせる監査法人への就職を決めました。
監査は、企業が作成した財務諸表が適正に作られているかどうかをチェックする、いわば会社の成績表を保証する仕事です。あってはいけないことですが、意図的かどうかに関わらず、会計基準が誤って適用されている場合もあり得る。だからこそ得た情報をやみくもに信じず、真偽を検証し、確かめる批判的姿勢、いわゆる“ 健全な懐疑心” を持ち続けることが重要です。こうした姿勢は、世界中の膨大な情報の信憑性を精査してまとめ上げる、国際機関の業務にも必要不可欠だと感じています。
一方で、多くの顧客にとって、会計のミスを指摘する監査人は、多少煙たがられる存在でもあります。私の主要顧客がファンドに買収された際も、監査の独立性を保つ観点から経営に関するアドバイスはできず、歯痒い思いがありました。そこで同じ汗をかくならクライアントのために働きたいと考え、コンサルティング会社への転職を決意。海外駐在・留学制度を含む人材育成を重視するBain & Company への転職を決めました。環境課題の解決には経営にも通ずる複合的課題解決の視点が不可欠。その点、コンサルタント業務は企業の経営課題を明らかにし、戦略立案や業務プロセス改善などを通じて解決策を提案するのが主な仕事です。企業の経営課題を解決するために、様々なフレームワーク(枠組み)に基づき、構造化してものを考える問題解決の手法も確立されています。たとえば「パレートの法則(80:20 の法則)」では、何が問題の根本か、突き詰めて考える癖が身につきます。「Why So? So What?」の思考法はどうしてそうなのか、だから何なのかを徹底的に考える姿勢が育まれます。
こうした問題解決方法は、国際機関で働く際にも大いに活用できるスキルだと実感しています。特に環境問題は、大気汚染、水質汚濁、ゴミ問題、地球温暖化など様々な要素が絡んでいます。複雑な問題を構造的にとらえ解きほぐし、根本課題を明らかにしたうえで仮説を立て分析する。こうした作業を高速でこなしていたコンサル時代の経験は、実際の仕事でも役立っています。とりわけ課題解決における具体的な道筋のつけ方、プロジェクトマネジメント、部下への指導などは、民間出身の人材が差別化できるスキルとして評価されます。
経営全般のアカデミックな知識と政策側のスタンスの両面を学ぶ
転職から3 年後、会社の留学制度を利用して、MIT への留学を決めました。環境分野へのキャリアチェンジを見据え、MBAを取得して広く経営全般の知識をつける狙いもありました。MIT の学びで特徴的なのは、グループワーク中心の授業が多いこと。人種や職業、性別を問わず世界各地から学生が集まる中で、重きを置かれているのは、チームでの働き方です。チームにどう関わり、リーダーシップを取れば貢献度を高められるのか。こうした教育で、グローバルでのリーダーシップが鍛えられます。
MIT のプログラムは2 年で修了ですが、提携校であるハーバード・ケネディ行政大学院で公共経営学修士課程(MPA)を履修できる「dual degree program」を知り、1年間留学を延長して私費での入学を決意。同校は公共政策大学院ともいわれ、政策やパブリックリーダーシップを学ぶことに重きが置かれています。授業の進め方はMITよりもさらに、教授・生徒を巻き込んだ教室内での議論が中心。学生の多くは省庁や国際機関など政策側出身で、授業ではなじみのない専門用語が飛び交います。しかし、一人ひとりの発言内容が成績に直結するため、授業内容をあらかじめ頭に叩き込んでおく必要があります。膨大な予習はとてもヘビーでしたが、受け身の姿勢では卒業すらままなりません。日々プレッシャーの中で走り続けた結果、英語で議論する力、リーダーシップが身につきました。“ ハーバード切符” とも呼ばれる、国際機関を含む様々な就職先の扉を叩ける権利と自信を得られた一方で、社会貢献への責務も感じています。また、授業外のイベントや交流の機会が多いのも米国の大学院の特長です。多くの人と対話を重ねる中で、これまでの人生を振り返り、将来の目標を深く考えるよい機会になりました。留学で培われた人脈と、日本で働き続けていたら出会えなかったであろう日本人とのネットワークは大きな財産。仲間との交流は今でも続き、仕事でも大きな助けとなっています。
環境100%の仕事をするべく国際機関OECDに就職
帰国から2 年後、次はいよいよ本格的に環境問題に関わる仕事を経験したいと、2021 年に外務省が主催するJPO 派遣制度に応募。2022 年1 月から現職に着任しました。OECD を選んだのは、気候変動のようなビジネス市場化も進んだ分野だけでなく、生物多様性を含めた環境全般の専門性を高めたいと考えたからです。また、留学中に参加したインターンでの印象がよく、パリが本部なので環境問題をリードする欧州で働けることも魅力の一つでした。
インターン時代は、北東アジアにおける大気汚染のレポートを作成。高度経済成長期における日本が、公害問題をどのような政策で乗り越えたかをわかりやすくまとめる業務を担当。基本的なレビューの執筆方法、進め方を体得することができました。
現在、私はOECD による環境保全成果レビュー(EPR)に取り組んでいます。EPRレポートではその国の環境政策に対する評価・提言に加え、成功事例の解説も付記します。ただし情報を集めて解説や提言をするだけでは、ただのまとめ記事になってしまう。環境の専門家として一歩踏み込んだ見解を自分の言葉でアウトプットすることが求められます。その点、自分はまだまだで成長の必要性を感じています。将来は環境の専門家として、政策・ビジネスの観点から 公共・民間の垣根を越えて、コンサルティング、アドバイザリー業務を行いたいと思っています。世界的に見て、日本は資源・ごみに対する環境意識(サッカーW杯の試合後にスタジアムのごみを拾う等)が高く、資源のリサイクルも進んでいます。そうした強みを政策に落とし込み発信していくことにも価値があります。
国際公務員を目指す方へのアドバイス 誰にも負けない専門性とアクション
国際機関の職員になることはあくまで手段であり、目的ではありません。自分は何を実現したいかを具体的に考え、この分野では誰にも負けないという強み、専門性を身につけることが大切です。そしてどの国際機関の部署、チームで働きたいかを調べ、そのプロジェクトレポートの要旨を読んでみる。働いている人に直接コンタクトをとったり、セミナーに参加したりしてみるのもいいでしょう。その上で大学院で学ぶ、語学力を磨くなど、応募要件をクリアするための具体的な道筋に落とし込んでいけば、遠い世界の話が身近になります。仮に国際公務員になれなかったとしても、それまでの努力が無駄になるわけではありません。不思議なもので最終的にはどこで働こうと点と点はつながっていくもの。自分の中に「これを実現したい」というブレない軸があれば、どんな職場でも得られる知識や経験は充実したものになります。
お問い合わせ先
名称 | 外務省国際機関人事センター |
所在地 | 〒100-8919 東京都千代田区霞が関2-2-1 |
公式サイト | https://www.mofa-irc.go.jp |
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その他 | 公式Facebook https://www.facebook.com/MOFA.jinji.center 公式Twitter https://twitter.com/MOFAjinjicenter |
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