プログラミング教育で女子の理工系への道を拓く
多田 遥香
ただ はるか
株式会社Griteen 代表取締役
<Profile>
筑波大学理工学群工学システム学類を3年間で早期卒業し、日本ロボット学会優秀学生賞も受賞。現在、同大学院理工情報生命学術院・システム情報工学研究群博士課程に在学中。2024年(株)Griteen(グリティーン)を設立。朝日新聞主催(後援:文部科学省、外務省)の大学SDGs ACTION! AWARDS 2024グランプリを受賞。

日本の理工系分野は、女性の少なさが際立つ。自然科学・数学・統計学の学位取得者に占める女性は27%で、OECD加盟36カ国中最下位。ジェンダー・ギャップ指数も148カ国中118位*だ。こうした状況を変えようと、ロボット部で世界一になった経験を糧に、大学院在学中に「Griteen」を起業した多田遥香さんに、その歩みと理工系進学を後押しする活動について聞いた。
*OECD「Education at a Glance」(2019年)、「Global Gender Gap Report 2025」(2025年6月)より
(文/松岡理恵)
工作好き少女がロボット部で大きく進化
多田さんの原点は、実家のかばん店にあった空き箱だ。「空き箱をおもちゃにして、よく遊んでいました」という多田さん。幼稚園の頃から工作に夢中になり、小学校では図工の授業で作品を作り、校内で展示や表彰されることもあった。「気に入ったらそれをとことんやるし、逆に気に入らなければ全然続かない」。好きなことに没頭する性格は、幼い頃から変わらなかったという。
大阪市の追手門学院大手前中学校・高等学校に進学した多田さんは、ちょうど新設されたロボットサイエンス部に、「人と違うことをしてみたい」という好奇心から入部。プログラミングを担当し、チームでロボットコンテストに挑む日々が始まった。当時、部員のほとんどは男子。「幼少期にロボットに触れる機会自体が、女の子にはほぼない」と多田さんは振り返る。
それでも物おじせず飛び込んだロボットの世界。中学1年生から全国大会に出場し、世界80カ国が参加する国際ロボット競技大会「ファースト・レゴ・リーグ」にも挑戦した。中学時代は悔しい思いを重ねながらも、高校1年生で初の世界大会出場を果たし、高校2年生では9人チームのリーダーとして総合優勝。米カリフォルニア州の舞台で頂点に立った。 「誰もやっていないことをする楽しさを知った6年間でした」と多田さん。在部中には部員が5人から50人に増え、「私のいる間に、有名部になったんですよ」と笑う。

人生を変えたシリコンバレー体験
筑波大学理工学群工学システム学類にAO入試で進学した多田さんは、「最初は授業についていくのに必死だった」と明かす。それでも学部2年から研究室配属前に研究に取り組める制度を利用し、コミュニケーションロボットの研究室で早くから研究活動を始めた。当時、研究室でも女子学生は多田さん一人だったという。学業成績は学年上位5%を維持し、日本ロボット学会優秀学生賞を受賞。学部を3年間で早期卒業した。
大学院進学後は、教育支援プログラム「ARE」で教育と工学を掛け合わせた研究に軸足を移した。現在は画像処理の研究室で、子どもの表情からAIで感情を推定し、グループワークの環境改善に生かす研究に取り組む。「誰もが質の高い教育にアクセスできる社会をつくりたい」という思いが、多田さんの研究と事業に共通する軸となっている。
その思いをさらに強くしたのが、大学院1年時に参加した経済産業省主催の「テック系理系人材シリコンバレー派遣プログラム」だった。250人から選ばれた30人の一人として渡米すると、現地のIT企業では男女が対等に活躍し、挑戦を恐れない文化が根づいていた。日本の理系インターンシップでは自分以外に女子がいないことも珍しくなかった多田さんにとって、その違いは鮮烈だった。「女の子向けの事業をやってみたい」と現地で打ち明けた多田さんに、現地の起業家が投げかけた「思っているなら、なぜ行動しないんだ」という言葉が忘れられないという。帰国から2か月後、多田さんは会社を立ち上げた。
自ら起業し、女子の学びを開拓
2024年2月、多田さんはつくば市と筑波大学の支援を受けながら株式会社Griteenを設立。同社は現在、筑波大学発ベンチャー、つくばSDGsパートナーズの認定を受けている。同年3月には、朝日新聞主催「大学SDGs ACTION! AWARDS 2024」でグランプリを受賞するなど、そのビジョンは早くから注目を集めてきた。
Griteenが運営するのが、小中学生の女子に特化したオンラインプログラミングスクール「griteen」だ。「単にプログラミングの技術を教えるのではなく、作ったものが誰の役に立つかを大切にしています」と多田さん。
講師を務めるのは、理系分野で学ぶ現役の女子大学生・大学院生だ。「女性が理系に進みにくい最大の理由は、ロールモデルの不在だと思っています」。そこで年齢の近い「お姉さん」から学べる環境を重視し、体験授業や独自の成長指標を通じて、プログラミングが将来どう役立つかを生徒と保護者に伝えている。マンツーマンのオンライン指導は画面共有で作業をすべて可視化し、信頼関係を築きながら進める。上級者向けコースでは社会課題の解決をテーマに、生徒自身が探究してものづくりに挑む。
ある児童が考案した、下校時に友達同士をマッチングする防犯アプリ「待ち合わせチャームミートアップ」は子ども向けビジネスコンテストで日本一に輝いた。「AIの時代だからこそ、プログラミングで培われる論理的思考力や、失敗を恐れず挑戦し続ける力がより重要になる」と多田さんは語る。今後は学校との連携も視野に、教育現場への展開を目指している。
最後に、これから理系分野を目指す女子中高生へのメッセージを尋ねると、「周りに合わせて進路を決めるのではなく、少しでも興味があるものには、自分から動いて試してみてほしい。やりたいと思ったら、迷わず一歩を踏み出してみてください」と答えてくれた。
理系分野で活躍する女性のロールモデルが少ないとされる日本で、多田さん自身の歩みそのものが、次の世代への何よりのメッセージになっている。

お問い合わせ
| 名称 | 株式会社Griteen |
| 所在地 | 〒305-0031 茨城県つくば市吾妻2-5-1 つくば市産業振興センター1F |
| 公式サイト | https://griteen.com/ |
| 上記ホームページ内の「お問い合わせ」をご利用ください。 | |
| その他 | ・幼稚園生〜高校生までを対象とした、オンラインプログラミングスクール ・女性講師によるマンツーマン指導で、初めてでも安心して学べる環境 ・「探究」から始まり、「デザイン」で形にし、「プレゼン」で社会へ届ける実践型カリキュラム |
【関連情報】

