桐朋中学校

クリエイティブな数学力をめざせ! 未知の領域に果敢に挑む生徒たち
【注目ポイント】
- 入試問題から定期試験まで、『見たことのない問題』への挑戦。
- 中1から高3まで『論理を積み重ねる』系統的な数学教育。
- 中学生が自分たちで定理を発見できる、創造的な教育の場。
数学入試問題に込められたメッセージ
時代を切り拓く「自律的な学習者」の育成をめざす桐朋中学校。時代におもねらず常に時代を貫く気概と校風が脈々と受け継がれている。外部入学者を受け入れ、高校での成績別・文理分けクラス編成を行わない校風は、多様な思考や背景を持つ生徒たちが共に学ぶ環境の重要性を示している。
その歴史は、民主主義に基づく社会形成に役立つ人間育成を掲げて1947年に教育基本法原案作成者の一人である務台理作が校長に就任したことに始まる。その理想は、閉塞感に苛まれる現代においても継承され、その状況を切り拓く上で必要とされる「自らの意志で学び続ける姿勢」「自主性」「協調性に富む人格」の育成に力を入れる。
論理を積み重ねて思考することは社会生活でも大いに役立つという信念のもと、中学から高校まで系統的な数学教育を実践。複雑な問題に論理的にアプローチできる人物の育成を目的としている。例えば『円に無作為の弦を引いたとき、その弦の長さが円に内接する正三角形の辺の長さより長くなる確率を求めよ』というベルトランのパラドックスがある。「無作為」に対する規定がないため、前提の置き方次第で正解は無数に出てしまう。このような論理的思考は、人の意見・主張や新聞・テレビ報道を精査し、正しく理解するためにも重要だ。
数学で育まれる論理的思考の入口となるのが入試問題だ。桐朋の算数入試では、難易度を段階的に配置しながらも、50分で見直すことができる設計を心がけている。
数学科の栗原忍教諭は「平均点を6~7割に想定し、段階的な成績分布によって選抜機能を果たす問題。また、最後の10分で解ける最終問題は、意図的に見たことのない問題を配置しているが、解くためには中高の数学知識は必要ない」と説明する。最終問題には、習った知識を応用して初めて見る問題に挑戦させる意図と、受験生に向けた『創造的に考えてみよう』というメッセージが込められた設計になっているのだ。

中1で学ぶ系統的ユークリッド幾何学
桐朋では、論理的思考の基礎として中1から「ユークリッド幾何学」に取り組む。ここで用いられるのが、演繹による論証にこだわった独自教科書で、そのスタイルは専門書にも負けないという。生徒は、古代ギリシャから続く幾何学の伝統の中で、論理の厳密性とその美しさに触れることができる。「『錯角は等しい』『平行線の性質』などの基本的な公理から出発し、ここを起点に中1から体系的に学ぶ」と栗原教諭。
証明問題では、丁寧な答え合わせが重視される。自分の間違いは、答えの書き方なのか、論理破綻なのかの判断は中1では難しい。授業では生徒の解答を一文一文検証し、論理が飛んでいる箇所を丹念に指摘する。この丁寧な指導の中で培われた「論理を積み重ねる思考」により、生徒は正解に至る思考の道筋を自分のものにしていく。高校数学は公式などを丸暗記する勉強法での対応は難しい。そこでつまずかないためにも、こうした思考訓練は重要なのだ。
同時に、問題をじっくり考える習慣も重視する。わかりやすいことがトレンド化する昨今だが、わからない事に挑む力をつけることは論理的思考の基礎になる。解けなくても答えを見ずに、5分、10分はしっかり考え、絵や図を描いて試す習慣をつけることが実は大切なのだ。社会には正解のないものや論理が不完全なものが多い。例えば死刑制度の是非などは大人でも判断が難しいが、互いの主張、論理を徹底的にじっくり話し合い理解する姿勢を持つことで問題解決への何らかの方向性は見出せる。

中学生が定理を発見し論文発表
栗原教諭がめざすのは、創造的な数学教育だ。ニュートン、ガロア、オイラーなど古今東西の数学者たち、がどのような「なぜ?」から始まり、どのような発見へ至ったのか。その思考の軌跡を辿りながら、生徒の創造性を引き出す工夫や仕掛けを行う。
この想いが最も実践的に表れるのが定期試験だ。毎回の試験の最終問題は入試問題同様、「見たことのない問題」を出してきた。これは習った通りに解く、という受け身的な学習ではなく、想定外の問いに向き合う力を養うためだ。授業で学んだ知識をフル活用し、創造的に問題へ対峙する経験を積み重ね、その反復の中で数学的な創造性が磨かれていく。試験結果より、その過程でどのような思考をしたのかが重要なのだ。
こうした創造的な数学教育実践の中から、生徒の才能が次々と開花している。その象徴が都築高人さんの研究だ。その発端は、中学までの数学の『まとめのテスト』として中3生に出題した『3つの素数の積を分母とする数の和に関する法則に関する問題』だった。栗原教諭は、その法則を「栗原忍予測」として解答例に述べ、さらにフェルマー予測(数学史上最も有名な逸話)のごとく『*余白がないので、証明は略』と記した。いわば生徒への「挑戦状」だ。
都築さんは「テスト中に問題の解法を直感しましたが、先生の解答例を見て違和感を覚えました。自分の解き方と違ったのです。自分の考えを証明するために数学の得意な友人2人の助言をもらいながら、放課後にそれを完成させて先生に見てもらいました」と述べている。その後、都築さんは栗原教諭と共に『都築・栗原の定理』として長崎大学教育学部初等数学論文コンテストに応募し、見事、審査員賞を受賞した。受賞後も都築さんは、定理をさらに拡張する研究を続け、それを発見。『既約分数の和の公式』として論文にまとめ、翌年も審査員賞を受賞した。栗原教諭は「最初は『都築・栗原の定理』でしたが、もはや『都築の定理』」と嬉しそうに語る。先生からの「挑戦状」に対し、主体的に興味を持って挑み、見事、結果を出した都築さん。桐朋が目指す創造的数学教育を象徴する瞬間だった。
栗原教諭はさらに、このような創造的な学びの場を立ち上げた。それが、7時間目の特別講座だ。生徒たち自らが数学の問題を作成し、講座内で発表会を経て、冊子として文化祭で配布。参加者は自由意志で集まり、数学という共通の関心のもとで、未知の領域を共に開拓していく。さらには大学レベル以上の数学を扱う月刊誌『数学セミナー』の読者が自ら発見したアイデアや発見を共有するコーナーへの投稿も予定している。
一人ひとりの生徒の可能性を信じ、それを引き出すための工夫が、栗原教諭の教育実践の根底にある。生徒の試行錯誤を見守り、時に示唆を与えることで、自律的な学習へと導いていく。教員と生徒という垣根を超えて、同じ数学に魅了された学習者として互いに成長するダイナミズムが、そこにはあるのだ。

創造的な数学の魅力と本質
栗原教諭が最も強く抱く想いは、数学教員の仕事がいかに創造的で魅力的であるかを、社会に知らしめたいというものだ。また、同時に受験一辺倒ではない数学の世界があり、そこは無限の可能性が広がっていることを伝えたいという。
「渋滞学などの応用数学のように社会問題解決に数学を応用する分野から、中高の知識で定理を創造することの可能性まで、数学の道は無限に広がる。数学は決して過去の学問ではなく、現在進行形で進化し続けている学問。『習った通りにやって解けました』という経験だけで終わるのではなく、その先にある創造の喜び、未知の領域に果敢に挑む充実感を生徒に感じてほしい」と栗原教諭。これこそが、桐朋が世に送り出したい創造的数学力の本質なのだろう。
学校データ(SCHOOL DATA)
| 所在地 | 〒186-0004 東京都国立市中3-1-10 |
| TEL | 042-577-2171 |
| 学校公式サイト | https://www.toho.ed.jp/ |
| 海外進学支援 | 有 |
| 帰国生入試 | 無 |
| アクセス | 国立駅(JR中央線)徒歩15分 谷保駅(JR南武線)徒歩15分 |
| 国内外大学合格実績(過去3年間) | 東京(理Ⅲ)、京都、東京科学(医)、一橋、北海道、東北(医)、名古屋、大阪、九州、神戸、東京外国語、東京藝術、筑波(医)、千葉(医)、信州(医)、横浜市立(医)、名古屋市立(医)、国際教養、東京都立、慶應義塾(医)、早稲田、上智、順天堂(医)、東京慈恵会医科、日本医科、トロント、ブリティッシュコロンビア、ダラム、エジンバラ、キングス・カレッジ・ロンドン、カリフォルニア(SD)、台湾など |
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