芝浦工業大学附属中学校

中1・GC「TOYOASOBI」フィールドワーク

理工系の力で社会の難問に立ち向かう。実現できる方法を考え抜いて道を開く

【注目ポイント】

  • 高校や大学進学後の研究の土台となる探究型授業を展開。
  • ICTスキルの獲得、人や社会の多様性を理解する「IT」「GC」。
  • 学びへの主体性を引き出す「SD」で、生徒の学習姿勢に変化。

実社会を視野に入れて学ぶ「IT」

2021年4月、STEAM教育を実践する学びとして、独自の探究型授業「SHIBAURA探究」をスタートさせた芝浦工業大学附属中学校。中高大一貫教育で未来のエンジニアを育成してきた同校伝統の教育の強みを生かし、PBL(問題解決型学習)を取り入れたカリキュラムを展開している。

「SHIBAURA探究」は「IT(Information Technology)」「GC(Global Communication)」「総合探究」から成る。「理工系の知識で社会課題を解決」を共通テーマに、中1・2で「I T」「GC」に、中3では集大成となる「総合探究」に取り組む。

「IT」は、まずは中1で多様なICTスキル全般に触れることからスタート。プログラミングやドローン制御、3DCAD、アプリ開発など、アイデアをカタチにする手法をゲーム感覚で体験する。

中2では、データ解析やデータサイエンスを学ぶほか、東京メトロとの産学連携によるPBLを実施。子ども向けではなく、東京メトロが現場で実際に解決したいと思っている課題を出してもらい、生徒は解決に挑む。あるときのテーマは、電気料金を抑えながら電力を補う方法の考案。電気をこまめに消すといった省エネ目線からではなく、お客様の安心安全を第一にした運行を維持しながら何ができるかを考え、プレゼンテーションを行った。探究科主任の岩田亮教諭は「東京メトロの方には生データを提供してもらうほか、『電気料金が上がっても、どうして運賃を値上げしないのか』など、どれだけ企業努力をしているかも説明してもらっています。知識やスキルは十分でなくとも、生徒は解決に向けて自走するようになり、足りない部分を自ら学び取ろうとする」と語る。普段から東京メトロを通学で使っているとあって親近感がさらに増すとともに、企業の課題を目の当たりにしたことで、実社会を体感。やがて経済や企業の動向にも関心を広げ、時事問題にもアンテナを張り巡らせるようになる。

中3では工学現場のものづくりのプロセスに則りながら、アイデアを実際に図面に起こし、3DCADでカタチにしていく。「ただものをつくるだけでなく、それによって人や社会にどのような良い効果をもたらすかという仮説も立てます。中2のPBLもそうですが、常に社会との接点を持つことを意識しています」と岩田教諭は語る。

中1・IT「ドローン& スクラッチ」プログラミング

豊洲から世界へと視野を広げる「GC」

「GC」では、フィールドを広げながらPBLを繰り返し、コミュニケーション力や発想力、課題解決力を身につけることを目指す。導入となる中1の1学期は、学校のある豊洲地区のフィールドワーク「TOYOASOBI」からスタート。「現代と昔の豊洲の地図を併記した「探Qマップ」を持って学校周辺を巡りながら地域の今昔を知るほか、水陸両用バス「スカイダック」に乗船して湾岸エリアを一望し、様々な観点から物事を捉えることの醍醐味を体感する。さらには重工業や水産業をはじめ、豊洲地区に深く関わってきた企業を訪問する機会もある。様々な活動を通して得た発見を基にしながら、問いの立て方や課題の見つけ方を学習し、探究に対する姿勢を醸成。フィールドワークを通じて気づいたこと、考えたことを伝える「TOYOSU解剖図鑑」をつくる。「GC」を統括する山川翔馬教諭は「『いつから豊洲は発展したのか』『どうして豊洲は緑が多いのか』など、身近なところにも問いがあることを体感し、徐々に視野を広げていくイメージ」と語る。

中2ではフィールドを地方へと移し、長野県の地域振興をテーマとしたPBLを実施。現地に暮らす人へのオンラインインタビューや長野農村合宿を通じてリサーチし、課題解決のアイデアをまとめ上げる。

さらに地理的な多様性だけでなく、人の多様性にも触れていく。中2の3学期には、パラリンピックの正式種目でもあるスポーツ「ボッチャ」を体験するほか、パラアスリートを目指すゲストスピーカーによる講話も。「障がいにも様々あり、バリアフリーとしてデザインされたものであっても、すべての人に使いやすいとは限らない」というエピソードは生徒に響き、共に同じ時代を生きる一員として誰もが幸せに暮らせる社会のあり方について考察した。

自走できる探究者を目指す「総合探究」

「GC」の総仕上げは、中3の海外教育旅行だ。D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を主軸に据え、人種や宗教、ジェンダーなどについて学ぶ。アメリカのシアトル、ソルトレイクシティ、セントジョージ、デンバーの4コースを設定し、グローバルな環境下でそれぞれの探究を深めていく。

中3の秋以降、「総合探究」の学びを開始。数学科・探究科の金森千春教諭は「ここまでにPBLの経験を積んでいるので、生徒自らで展開していけるだけの力が十分についている」と語る。まずは個々の生徒で探究計画書を作成し、興味や関心が重なる生徒同士でチームを結成。改めてチームで問いを立て、活動を行っていく。

調べ物をするときは必ず複数の情報源にあたる、ポスターや論文など、成果の発表は最適な方法を選択するなど、リサーチやアウトプットの作法も学習。さらには有識者や当事者へのインタビューも必須にしており、アポ取りも生徒自身が行う。「総合探究での経験をベースに、高校段階で自走できる探究者を育てることが狙いだ。

「過疎地を若者が移住したくなる地域にするには」「同じスポーツで義足の選手と健常者の選手の記録は公平か」「3Dプリンタで耐震基準を満たした住宅をデザインする」「AIロボットで人手不足を解決できるか」など、テーマは実に多彩だ。

中3・総合探究「SHIBAURA 探究DAY」プレゼンテーション

授業第一主義を掲げ、自立学習を促す

同校では教科書の先取り学習をせず、中学では主要5教科の授業時間数を各4コマに設定している。学習のベースとなる授業の密度を高めるとともに、生徒が主体的・効果的に勉強を進める同校独自の授業「SD(Self Development:自立学習)」を展開。中1・2で週2コマ、中3では週3コマをカリキュラムに組み込んでいる。金森教諭は語る。「先取りしたからといって知識が定着するわけではない。学びは本来、生徒自らが獲得するものであるべき。カリキュラムを見直す際、教員同士で何度も議論を交わしました。SDの導入は、従来の『教え込む』という考え方が変容した結果です」。

SDでは、生徒自身で何に取り組むべきかを考え、自分の学びをデザイン。宿題をする時間にあてる生徒、復習や応用問題に挑戦する生徒、プレゼン資料の作成や英検の準備学習など、自ら学び進めている。SDを導入したことで自学自習の姿勢が身につき、学力の底上げにもつながった。

卒業後は約8割の生徒が理系学部に進学している。高2からは、主に芝浦工業大学への推薦進学を目指す「一般理系コース」、国公立大や難関私大の理系学部を目指す「特別理系コース」、上位大学の文系学部を目指す「文系コース」の3コース編成となり、近年は国公立・難関私大への合格者をコンスタントに輩出。大学進学というルートに捉われず、6年間で積み上げてきた実践力と創造性を発揮し、高校卒業後すぐ起業した生徒もいる。斎藤貢市教頭は語る。「本校の教育は大学合格がゴールではなく、生徒が社会に出てからいかにして自分の力を発揮し、喜びを感じられるようにするかに重きを置いている。社会課題に立ち向かう勇気やものづくりへの気概を育むことを何よりも大切にしています」。

学校データ(SCHOOL DATA)

所在地〒135-8139 東京都江東区豊洲6-2-7
TEL03-3520-8501
学校公式サイトhttps://www.fzk.shibaura-it.ac.jp
海外進学支援
帰国生入試
アクセス豊洲駅(東京メトロ有楽町線)徒歩7分
新豊洲駅(ゆりかもめ)徒歩1分
国内外大学合格実績(過去3年間)芝浦工業、東京工業、東北、筑波、東京農工、信州、慶應義塾、早稲田、上智、東京理科など

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