海城中学校

国際数学オリンピック銀メダル受賞時の新井秀斗君(オスロにて)

ワクワク授業をつくる熱血 教員と世界の大海原へ乗り出す生徒たち

注目ポイント

  • 「数学は楽しい」という原体験が生徒の大きな成長を促す
  • 国内外の学校との交流で生徒の探究心や好奇心を刺激する
  • 国際レベルで活躍する数学部とグローバル部

数学の魅力を教えたい~数学の楽しさ、ワクワク感を発見&育むKSプロジェクト

海城中学高等学校のK(海城)とS(School)を組み合わせた校章の縦の軸は船の「帆」を、そしてS字の曲線はその帆をたわませ船を前へと推し進める「柔らかな海風」を表している。「帆」によって暗示される船はいずれ大海原、すなわち未知なる社会・世界へと旅立つ生徒を、そして柔らかな海風は、生徒に寄り添い柔軟に支援・教育する教員の姿を現す。これを体現するように海城は学習指導要領の枠に収まらない生徒がワクワク感を持って臨める様々な学びの場を提供することに尽力している。  

1992年にスタートした「社会科総合学習」は社会科の面白さ、興味関心を引き出し探究していく、今や海城の学びの象徴といえるだろう。中学3年間、週2時間、通常の社会科の授業とは別枠で行われる。資料・文献調べから、取材、レポートや論文の記述、プレゼンテーションに至るまでのアカデミックスキルを段階的に身につけ、中3で原稿用紙30枚以上の卒業論文に取り組む。2021年にはScience Center(新理科館)を完成させ、海城の高い能力を秘めた生徒らの多彩な探究心、好奇心をより発揮しやすい環境を整備した。

さらに注目すべきは、複数の教科の枠を超えた生徒の主体的な学びの場である「KSプロジェクト」。開催時期や時間、回数、対象学年は講座ごとに設定する自由度の高い講座だ。同校の財産ともいえる高い専門性を持つ教員だからこそできるハイレベルな内容と共に学びを楽しむという思いが込められている。

14年目を迎えるKSプロジェクトの『数学科リレー講座』も数学科教員の「数学の楽しさを伝えたい」という熱意が込められる。この講座開催の端緒となったのは「ピタゴラスとガロアはどちらが昔の人物か」という生徒の質問だった。数学科主任の川崎真澄教諭は驚きとともに「大げさに言えば、日々の授業で数学史を扱わないがゆえに生ずる不具合への危機感があり、真剣に取り組むべきテーマだと感じた」と振り返る。また、数学に対して問題を解く教科と考えることが多いが「どのような必然性があり、その定理や公式が誕生したのかを背景と共に教えることで、その先には面白い世界があることを知ってほしい」と数学科・小澤嘉康教諭は語る。

昨年の夏休みには『πとeとiの話』と題し、最終的にはオイラーの等式(eπi+1=0)の証明を目標に開講し、前半3日間は215名が参加。後半3日は希望者の中から抽選で選ばれた60名に対して、より深い内容に踏み込んだ。ハイレベルではあるが、中1、中2の参加者も多く、「楽しかった」という感想が散見される。「教員が数学を心から楽しんでいる姿を授業やリレー講座で見せたい」と語るのは数学科・平山裕之教諭。そんな姿に感化された生徒は、より深い数学の世界への扉を自ら開ける。早い段階での「数学は楽しい」という原体験はその後の成長に大きく影響すると3教諭は声を揃える。

中3社会科卒業論文発表会の様子

数学の力をさらに伸ばす~国内外の学校との交流と切磋琢磨

数学科では国内外の学校との交流も盛んで、これは10年ほど前にSSHである大阪府立大手前高等学校のマスフェスタを視察に訪れたことに始まる。その後、同じくSSHの横浜サイエンスフロンティア高等学校との交流がスタートし、各校の研究成果を発表しながら全国の数学好きが議論や交流を深める同校主催の「マスフォーラム(数学生徒研究交流会)」へ発展を遂げた。また武蔵高等学校中学校とも定期的に数学研究で交流している。

さらに国外提携校の新モンゴル学園との交流もある。モンゴルは幼少期から数学の英才クラスを設ける学校もあるほど、数学教育に注力し、GAFAを中心とした世界有数のIT企業のSEとして活躍する人財も多い。特に国際数学オリンピックなどの競技数学が重視され、強化トレーニングも盛んで、中1、2で大学の整数論専攻レベルの高度な数学まで学んでいるという。「本校にも優秀な生徒がたくさんいますが、機会がないがゆえに才能が開花しないまま大学へ進学してしまうのは非常に惜しい」と川崎教諭。国内外の学校との交流は海城とは異なる教育思想や取り組みなどを知る機会であるとともに、生徒の探究心や好奇心を刺激する意図もあるのだ。

そのほか数学部の存在も見逃せない。27名の部員が週1回の定例会をベースに活動。競技数学対策、各種コンクールへの参加や雑誌投稿を行う数学研究、ゼミ形式の輪講の3つのグループに分かれ自由に数学の世界を仲間と共に楽しむ。また部員でない生徒にも門戸を広げるオープンさも特徴だ。例えば自主的に数学研究に取り組んだり、授業やリレー講座で光る才能が垣間見えた生徒には教員が個別に声をかけ、数学部での発表を促し、場を提供することで才能開花の機会につなげる。数学部は海城の数学力のレベルアップを促す重要な起点・起爆剤の役割も果たしているのだ。

国際レベルで通じる能力を育む海城教育~数学オリンピックや論文で高い評価

数学部からはこれまで2名が国際数学オリンピック日本代表に選出され、そのうち1名は昨年銀メダルを獲得。また同年、数学界の権威ある欧州の査読付き名門数学誌『NNTDM(Notes on Number Theory and Discrete Mathematics)』に高3生3名の共著論文が掲載されるという快挙もあった。この論文のアイデアは数学科リレー講座の『フーリエ誕生250周年記念』に中学生時代に参加したことが端緒となっている。これらの輝かしい成果は、授業や講座、部活動を通じた日々の取り組みが実を結び国際レベルの才能を引き出したと言える。これは海城の数学教育レベルの高さのひとつの証明ともとらえていいだろう。

 しかし、一方で海城の数学の入試問題は最後まで忍耐強く解く計算力、そして与えられた範囲を満遍なく勉強してきた勤勉性を重視する。記述問題がないのも特徴だが、「論理的な思考と、それを記述する力は中高でしっかりとつけさせます」と平山教諭。

2023高校模擬国連国際大会の参加資格を勝ち取った桝田啓太郎君と土屋哲史君

舞台は世界へ~グローバル部の存在と海外進学

2014年に設置された英語ディベートやディスカッション、模擬国連対策などに取り組むグローバル部の存在も注目だ。2017年には模擬国連国際大会の日本代表の資格を得て、翌2018年にはNYで開催された国際大会にて日本人の男子で初の最優秀賞にあたる事務総長賞を受賞した。その後も後輩が後に続き、2019年、2022年にも国際大会の切符を手にしている。さらに事務総長賞を受賞した生徒がハーバード大学へ進学したことで海外トップ大学も海城生にとって現実的な進学先となった。昨年度は世界大学ランキング2位のカリフォルニア工科大学の合格者も輩出。この生徒は「AI技術を学び、世界の教育格差をなくしたい」と将来の夢を語ったという。「彼は在学中にも経済的に恵まれない子どもたちに数学を教える活動をし、そこから世界の教育格差を少しでも縮めたいという志を持った。高い学力だけでなく、他者や社会を思いやるパブリックマインドを育めたことは嬉しい」と校長特別補佐の中田大成教諭は笑みをこぼす。まさに海城の教育が掲げる「高い知性と豊かな情操」を体現した理想的な形と言える。

小舟だった海城生は、教員たちが柔らかな風となり導いた6年間で、自らのエンジンを力強く駆動させる立派な船へと成長しそれぞれの大海原へと挑む。

学校データ(SCHOOL DATA)

所在地〒169-0072 東京都新宿区大久保3-6-1
TEL03-3209-5880
学校公式サイトhttps://www.kaijo.ed.jp/
海外進学支援
帰国生入試
アクセス新大久保駅(JR山手線)徒歩5分
西早稲田駅(東京メトロ副都心線)徒歩8分
国内外大学合格実績(過去3年間)ハーバード、カリフォルニア工科、ミシガン、ジョージア工科、カリフォルニア、東京、京都、東京工業、一橋、東京医科歯科、東京外国語、早稲田、慶應義塾、上智、東京理科、東京慈恵会医科、順天堂など

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