女子学院中学校

自己と向き合う講堂礼拝の様子
自己と向き合う講堂礼拝の様子

聖書と礼拝が隣人愛と深い思索を育み、美術教育が自由な発想を解放する

【注目ポイント】

  • 人生の大きな礎となるキリスト教教育。
  • 多様な価値観や思想に触れ、答えのない問いに挑む。
  • 自己を自由に表現し、他者に感動を与える体験を促す美術教育。

キリスト教教育で自己の確立を促す

キリスト教精神を教育の根幹とし、自らに問う姿勢を持った女性の育成を目指す女子学院。「与えられた賜物を自分のためだけでなく、他者や弱い者に寄り添いながら世のため社会のために活かしていく。そのために自らに問い続け、知見を得るために学ぶ6年間」と鵜﨑創院長が語るように、日々の学校生活にはキリスト教精神が根づいている。

毎朝の「礼拝」や週1時間の「聖書」の授業は、自分と向き合い自己を確立させる大切な時間だ。また、一人ひとりが大切な存在であるという「個の尊重」と同時に、個々が違った存在であることを認める「他者への理解」を深める時間でもある。

例えば、中1の聖書の授業でははじめて新約聖書に触れる。このとき、『隣人を愛しなさい』『あなたがたが私を選んだのではない。私があなたがたを選んだ』といったイエスの言葉に反発心を抱く生徒もいるという。「友人や家族を愛することは分かるけれど、隣人を愛するとはどういうことなのか?」「私が自分で努力して入学した。私が選んだはずだ」。生徒たちは今までにない価値観を突きつけられ、戸惑い、混乱する。聖書科の石丸教諭は、「こうした葛藤をきっかけに各々が時間をかけて思考を重ね、価値観が覆ることを経験する」と語る。

さらに、中3では旧約聖書を読み進める。旧約聖書には、人類最初の殺人を記した『カインとアベル』をはじめ、綺麗事ではすまされない罪深い人間の姿を捉えた物語も多い。「生徒たちは、聖書を通じて自分が知らなかった多様な人間理解に触れ、それが個々の視野を広げる契機となる」と石丸教諭。

こうした聖書の授業の根幹となっているのが、毎朝行われる礼拝だ。教員が聖書を読み、それをもとに話す。その話は聖書の解釈にとどまらず自分が失敗した、もしくは誰かを赦せなかったなど、生徒の学校生活や体験に近い話も多くある。礼拝は生徒が担当することもある。人間は常に不完全な存在で、大いなる神の前では教員も生徒も分け隔てなく平等だということを、生徒たちは礼拝を通じて理解する」と、石原教諭は語る。

自分にはない価値観を他者が持っていることを知り、その価値観を受け入れ、自己を見つめ直す。こういった体験を日々積み重ねることで、生徒たちは大きく変化していく。

愛、自由とは。正解のない問いを探求

そんな生徒たちの変化と成長がはっきりと形になるのが、高3の聖書の授業だ。西洋思想史を通して歴代の思想家たちの多様な考え方を学ぶ。人の思考に触れる集大成として期末テストの論述課題に向き合う。前期のテーマは「愛について」。生徒たちは、聖書や古代から近代までの思想家の語る愛の理解に触れ、「愛について」自分の言葉で定義していく。

後期は「自由について」。女子学院のなかで経験した自由について、近代の思想家たちと対話しながら、自分の言葉で、自身が経験した自由を論述していく。

まさに、キリスト教を根幹にした女子学院の教育の重要な概念である「愛」と「自由」という、答えのない問いに挑戦することで、深い思索のできる人間が育っていく。

「卒業後は、必ずしも努力が報われるとは限らない、理不尽な世界に身を置くことになる。そうした中で、自分は何者なのかと悩んだときに、聖書の授業や礼拝を思い出してほしい」と、石丸教諭と石原教諭は声を揃える。朝の礼拝に参加するために来校する卒業生も少なくない。

自分を表現する、競争のない勉強

自由を探求する学校の姿勢は、美術の授業にも反映されている。「美術は、『競争のない勉強』。『自分のことを表現する』だけで成り立つ世界があることを生徒に伝えるのが、美術教育の狙い」だと語るのは、美術科の宮良教諭。荒木教諭も、「自分の作品を見て、感動してくれる人がいることを経験してほしい。大切なのは上手・下手ではなく、『誰がどういう思いで作ったのか』。まずは自分で自由に表現し、次に友人の作った作品も鑑賞してみる。こうした体験を重ねると感受性が豊かになり、友人たちの作品に感動できるようになる」と続ける。

自由な発想と創造性が育まれる様子は、高1の木彫の授業からも伺える。テーマは「マスク(顔面)」だが、生徒たちはこのテーマを自由に解釈し、顔以外にもリンゴや砂時計など実に多様な作品を制作するという。

「教員が与えるテーマは、創作活動のきっかけになればいい。自由に楽しむことを第一に考えているので、作品完成後に全作品を並べて出来・不出来の講評も行わない方針」と、宮良教諭。その一方で、「作品を通して生徒の内面を理解し、一人ひとりに声を掛け、良い方向に導くのが教員の務めだ」とも語る。

また、高2の選択授業の美術では、前期に「デザイン演習」を、後期には「自由課題」に取り組む。デザイン演習は「DIY」というシリーズ名を冠しているが、「ここで言うDIYは、DESIGN IT YORSELF。まずはチャレンジしてみようという趣旨」だと荒木教諭は説明する。

昨年度は児童文学作家の岩佐めぐみ氏をアドバイザーに迎え、幼稚園児に読み聞かせるための絵本を制作した。最初に行ったのは、グループで1冊の本を分担して読み、内容を発表するというチームビルディング。その後、各自で物語のプロットを構想し絵本制作へ。完成後には幼稚園を訪れ、読み聞かせも体験した。「園児から『読み聞かせしてくれたお姉さんたちに』と、折り紙のプレゼントをもらう場面もあった。生徒たちは表現がもたらす豊かなコミュニケーションを体感し、充実感を味わったようだ」と荒木教諭は微笑む。

続く後期の自由課題では、導入に、生徒たちのモチベーションを高める時間を設けるという。例年、これまでの人生を振り返る時間を作ったり、個別のカウンセリングを行ったりしているが、2024年度は、自由な創作活動を展開して社会的な注目を集めた福祉作業所のドキュメンタリー映像を鑑賞した。「各自が『本当は何を表現したいのか』を自分自身に問い、じっくり考えるきっかけになったのではないか」と荒木教諭は手応えを語る。

表現とは、個の自由を解放することから始まる。「個の尊重」「他者への理解」を深めるキリスト教教育とともに、女子学院の大切な学びだといえるだろう。

高2美術の「絵本の読み聞かせ」実習の様子
高2美術の「絵本の読み聞かせ」実習の様子

学校データ(SCHOOL DATA)

所在地〒102-0082 東京都千代田区一番町22-10
TEL03-3263-1711
学校公式サイトhttps://www.joshigakuin.ed.jp/
海外進学支援
帰国生入試
アクセス麹町駅(東京メトロ有楽町線)徒歩3分
半蔵門駅(東京メトロ半蔵門線)徒歩6分
市ヶ谷駅(JR中央線、都営新宿線、東京メトロ南北線)徒歩8分
四ッ谷駅(JR中央線、東京メトロ南北線・丸ノ内線)徒歩13分
国内外大学合格実績(過去3年間)東京、京都、東京科学、一橋、北海道、東北、大阪、東京農工、東京外国語、東京藝術、お茶の水女子、筑波、防衛医科、慶應義塾、早稲田、日本医科、順天堂(医)、東京慈恵会医科、コロンビア、ペンシルベニア、スミスなど

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