女性活躍推進だけではイノベーションは不十分 新しい女性リーダーが目指すべきは“D&I”
細木 聡子
株式会社リノパートナーズ 代表取締役
<Profile>
筑波大学卒業後、NTTに入社。一度は「管理職に向かない」と評価されるがリベンジし管理職に。自分らしさを大切にしたマネジメントスタイルで部下との信頼関係を築き、チーム成果最大化を実現。10年の管理職経験を経て、2018年人材育成コンサルティング会社・㈱リノパートナーズ設立。これまで延べ1,800人の人材育成に携わる。NTTでの経験で培った独自のマネジメント法をベースに技術系企業の女性管理職育成を軸としたダイバーシティ経営の推進支援を行っている。
少子高齢化が進み、多様な働き方、価値観が求められている現代。日本企業の多くは「女性活躍推進」に力を入れ、多様な人材を集める一方で、これまでの慣習や企業風土から抜け出せずにいる。新たな企業価値の創造を生み出す「ダイバーシティ」の視点が注目される中、「自分の環境を変えたいという女性管理職が増えることで、誰もがもっと働きやすい環境になる」と語る細木聡子社長に、その真意を伺った。
(文・佐久間香苗)
コロナ禍でのテレワークが引き起こした問題とは
新型コロナウィルスの感染拡大によるテレワークの推奨で、私たちの働き方は大きく変化しています。しかしその一方で、弊害が見えてきたのも事実です。多くの技術系企業は、会社のために長時間働くことをよしとする旧態依然とした男性社会。ある企業では、業務のテレワーク化によってメールやチャットによる連絡対応、オンライン会議、資料作成等が煩雑化し、残業時間が増加。業務の管理強化が進み、上司も部下も疲弊しきっているといいます。
こうした状況下で思うようなパフォーマンスを発揮するにはどうすればよいのか。その突破口となるのが、多様な背景を持った人々の知恵、アイディアを融合させる「イノベーション」を起こすことです。これまでの画一的な働き方、人事評価を見直し、根本から経営陣の価値観を変えていく。そうしなければ、先行きの見えないこれからの時代、不測の事態に遭遇した時に立ち行かなくなってしまうでしょう。
イノベーションの前提となるのは、ダイバーシティです。多様な視点を取り入れて新しいルールを作り、硬直化した組織風土を変えていく。それにはまず、大きなマイノリティである女性の視点を取り入れることが、効率的かつ有効な手段の一つではないかと考えています。
大企業の女性活躍推進 内実を伴わない施策も
日本企業の女性管理職の数は、2016年の女性活躍推進法の施行でゆるやかに増加。その一方で、様々な課題が浮き彫りになっています。ある大企業の人事部員から、女性の管理職比率である数値目標にのみに着目し、「男性と女性が同じ実力なら女性を管理職に登用する」と聞いたことがあります。こうした小手先の数合わせは、男性に不公平感を与えるばかりか、女性側にも過度な負担を強いることがあります。
多くの日本企業は男性視点で仕組み化されていますが、男性と女性では仕事に対する価値観が違う。まずはそれを理解することが重要です。女性管理職に対して男性的なリーダーシップを求めても、厳しい言動で部下を責め立てるなど感情的なマネジメントになりがちで、多くは失敗に終わります。理想のロールモデルがいなければ、女性がキャリアアップをイメージできず、なり手もいなくなるでしょう。
では信頼され、成果を上げる女性管理職を育てるにはどうすればいいのでしょうか。かつて26年間、私が男性視点中心に運営されている職場で学んだのは、女性ならではのマネジメント教育の必要性です。
かつて私はSE部門の管理職として残業が続く激務の日々を過ごしていました。他部署も同じような状況で、当時はそれが当たり前。私はといえば、エネルギッシュに部下をリードする管理職があるべき姿だと思い込んでいました。周りの管理職もみなグイグイチームを引っ張って行くタイプ。でもこうしたマネジメントを私が真似てもことごとく失敗。私には全く合いませんでした。そして心を入れ替え、自分が当事者として自分を変え、環境を変えようと決意。その結果、人の力を引き出すのはこういうことかと得心したのです。
大企業での管理職時代、部下3人と挑んだ「残業ゼロ作戦」
私が管理職としてまず行ったのは、部下に対する決意表明です。なぜ残業をゼロにしたいのか、そして目的達成のためにはメンバーの協力が不可欠であることを伝えました。当時の部下は女性2人、男性1人の計3人。それぞれが個性的な資質と、こだわりを持ち合わせていました。そんな中、一人ひとりと個別に面談し、残業ゼロにするためのアイディアを募集。仕事に対する思いや考えを詳しく聞き出し、どんな業務ならやりがいを感じるか、どうしたら個々のパフォーマンスを向上させられるかを一緒に考えました。さらに業務のスリム化のため、上司である私への説明資料をなくし、稟議書や決裁文書の事前確認も思いきって廃止。「信頼する部下が一生懸命作った書類なら、私は喜んで判を押す」というスタンスです。部下に全幅の信頼を置き、何かあったら自分が全責任を負う。それくらい切羽詰まっていたのです。
信頼関係を築くマネジメントを行う中で、私は部下たちからさまざまな気づきを得ました。今思えばこの体験こそが、女性管理職ならではのマネジメント教育の必要性を考える後押しをしてくれたのです。
子育てのため時短勤務で働く部下の女性Aさんは、かつて自分のペースでできる仕事のみを与えられていました。しかし家事や育児、仕事を時間内にテキパキとこなすノウハウを「残業ゼロ作戦」に活かしてもらい、得意とするクリエイティブな能力を発揮する仕事でやりがいも向上。残業せずに就業時間内で帰れるのなら、と時短勤務の解消に至りました。もう一人の女性Bさんは、前の職場での仕事がきつく、メンタル的な問題を抱えていました。性格は真面目で、些細なことにもよく気がつくタイプ。そのポテンシャルを信頼し、きめ細かい対応を求められる仕事を任せたところ、見事期待に応えてくれました。すると自信を取り戻し、体調も回復。将来の女性管理職候補として成長を遂げたのです。もう一人の男性Cさんは、正確性が問われる繰り返しの仕事が得意。臨機応変さが求められる業務は不得手だったので、得意なことを活かせる業務に注力してもらいました。のちに担当業務において、素晴らしい成果を出してくれました。
こうした取り組みの結果、私たちのチームは「残業0、成果2倍」を達成。部下たちからは、こう声をかけられました。「細木さんに信頼されていると思えたからこそ、3人で協力してミスを減らし、少ないコストで高い成果を上げようと努力した」と。試行錯誤しながら必死でやってきたことは間違いではなかった。部下の資質やこだわりに寄り添い、充足できる業務をマッチングさせて日々の仕事をライフワークに変えていく。一人ひとりの得意を引き出し、きめ細かくサポートする支援型のスタイルこそ、私があるべき姿なのではないかと気づいた瞬間でした。
多様性の先を見据えた「D&I」がイノベーションの起爆剤に
今思えば、部下を信頼して任せなければ仕事が回らない状況でした。それでも逃げずに部下を巻き込み、しなやかに取り組むことの重要性を痛感。俯瞰的なマネジメントと細やかな気配りができる女性管理職は、もう一つのリーダー像ではないかと思えたのです。長時間勤務が当たり前の職場で、上司はチームの取り組みに高い評価を示し、部下の成長を心から喜んでくれました。精鋭揃いの部下を率いる男性管理職の同僚が、この功績を高く評価してくれたのも素直に嬉しかったですね。
企業間の競争が激化し、社会がめまぐるしく変化する現代。勝ち残るカギは、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」。多くの女性管理職が「自分の環境を変えたい」という当事者意識で職場の風土を変えていけば、誰もが働きやすい環境になるのではないでしょうか。そして女性を足がかりに外国人や障がい者の視点も受容(インクルージョン)し、新しい価値や成果を生み出していく。これこそが企業の力を高め、イノベーションを起こす起爆剤となる。今こそD&Iを推進する女性リーダーが必要であり、それが企業変化の突破口の一つになると考えています。
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