いつでも、どこでも、誰でも学べる高校【東海大学付属望星高等学校】

吾妻俊治

あずま としはる

東海大学付属望星高等学校 校長

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戦後の通信制高校に初めてFMラジオによる教育を導入した、東海大学付属望星高等学校。現在はオンデマンド配信による質の高い通信講座に加え、人間力を養うスクーリングで、大学進学を目指す学生が多く集まる。その人気の秘密に迫った。

学びたくても学べない若者に学びの機会を提供

戦後の日本は、急速な経済成長と社会の変革の渦中にあり、経済的制約や社会情勢により、学びたくても学べない多くの若者が存在した。そんな状況を打破しようと挑んだのが、東海大学の創立者、松前重義氏である。松前氏は、日本初となるFMラジオを活用した学習システムを導入し、1959年4月に東海大学付属望星高校の前身である東海大学付属高等学校通信教育部を開設した。

FMラジオによる学習システムの導入は、経済的な状況や居住地域にかかわらず、一貫した教育をどこからでも受けることが可能となるという新たなパラダイムを生み出した。進学したくてもできなかった向学心あふれる若者に、学びの機会が提供されたのだ。

そして現在、東海大学付属望星高等学校はさらなる進化を遂げている。かつてFMラジオを通じて教育を行っていた学校は、インターネットの普及でより多くの生徒が質の高い教育を受けられるようになった。どこにいても、どんな状況でも、自分の学びを追求するという松前氏の理念が今も変わらず堅持されているのだ。

生徒の過去より、未来に焦点を当てたバックアップ体制

東海大学付属望星高等学校は、学力の育成だけでなく、社会性や人間力の育成にも重きを置いている。入学生のバックグラウンドは多様で、人間関係に悩む子、難関校の中退者、特技や芸術を追求する子、そしてスポーツや芸能活動に情熱を持つ子どもが在籍している。

子どもたちの成長を身近でサポートする教員の多くは、東海大学の全日制高校での教育経験を持つ。そのため朝の挨拶や声掛けを積極的に取り入れるなど、全日制高校で培った経験をベースにこうした生徒との信頼関係の構築に力を注いでいる。教員の多くは、多様な背景を持つ生徒たちは、人の気持ちの傷みを理解し、気遣いができる子が多いと感じている。それだけに、いじめなどの深刻な問題が起こりにくく、学校生活を前向きに楽しもうとする雰囲気が少しずつ醸成されるのだという。

吾妻俊治校長は次のように語る。「生徒一人ひとりの背景は多様ですが、私たちは彼らの過去よりも、将来は大学で学びたい、自らの特技を生かしたいなど、これから何を望み、どうなりたいかに焦点を当てています」。過去についての詳細はクラス担任が把握しているが、それは生徒一人ひとりを理解し、より効果的な支援をするためであって、それ自体が目的ではないと吾妻校長は考えているのだ。

通信講座を主軸とした、4段階の教育システム

通信教育のパイオニアともいえる東海大付属望星高等学校の教育は、以下の4つの要素で構成されている。

  1. 高校通信教育講座の視聴(受講)
  2. スクーリングへの出席(月2~3回程度)
  3. レポート課題の提出
  4. 期末試験の受験

なかでも同校が特に力を入れているのが、校内の専用スタジオで収録するオリジナルの高校通信教育講座だ。各教科の教員の解説に加え、文字や画像、音声をわかりやすく編集して製作された動画は、生徒たちが集中できるよう約20分間に凝縮してオンデマンド配信される。全日制の授業と同じ内容を20分間にまとめるのは、ベテラン教員でも至難の業である。しかし、「学ぶ楽しさや学びの深さを感じてほしい」と考える教員の熱意によって、毎週、質やレベルの高い高校通信教育講座の配信が続けられている。

「本校が提供する講座は、生徒たちが理解できるまで何度でも見直し、自分のペースでじっくり学習できるように設計されています。事実、講座を何度も見直す生徒たちの成績が高いという調査結果も得られています」(吾妻校長)。

さらに同校では、自宅学習型の高校通信教育講座やレポート提出を主軸としながらも、スクーリングや各種行事への生徒たちの積極的な参加を促している。

スクーリングは、1回当たり50分間で、一単元ごとに文科省で規定された回数の1.5~3倍の回数を実施している。しかし2020年、新型コロナウイルスの影響により、スクーリングを3カ月間中断せざるを得なかった。 その経験を通じ、対面で学ぶことの価値を改めて認識したと吾妻校長は述べている。「生徒たちの学習意欲を刺激し、将来的にコミュニティの中で生きるために欠かせない経験、それが対面学習だと考えています。だからこそ、スクーリングや行事への参加が刺激となり、自宅学習のモチベーションが上がってくれれば嬉しい」と吾妻校長は双方の相乗効果を期待する。

フィールドワークの理科研究では友情も育まれる

付属校の強みを生かし、東海大学や難関大学への進学を目指す

東海大付属望星高等学校は、大学進学志向が強い生徒が多いことでも知られている。同校がスクーリングを重視するのは、将来、大学生活を送るうえでの必要な体力とコミュニケーション能力を身につけてほしいという思いもあるからだ。

さらに、同校は東海大学の付属校であることから、大学と連携した一貫教育を推進している。具体的にはキャンパス見学や模擬授業の体験、成績優秀者向けの体験留学など、多彩なオプションが用意されている。また、付属校の利点として、東海大学への推薦入試や奨学金付きの特別入学制度も用意されている。

2019~21年度には、一般入試を含めて約80名の卒業生が東海大学へ進学している。さらに、外部の塾や予備校の併用を通じて、東京大学を始めとする難関大学へ進学した生徒もいる。

入学時は自信が持てなかった子も、望星高校で目標を見つけてからは、夢に向かって羽ばたき、自信を持って卒業していく。そしてたびたび母校を訪れ、近況を報告してくれるのだという。 かつて全日制の教員として、生徒たちの授業や部活動への取り組みを見守ってきた吾妻校長は、同校に赴任して「それが当たり前ではない」と認識し、生徒が学校に足を運んでくれることに感謝の心を持つようになったと述べている。「入学時には曖昧でも、望星で目標を見つけ、夢を追い求めている生徒も数多くいます。私たちはこれからも一人ひとりの生徒の考えや希望を大切にし、彼らの夢をかなえるサポートを全力で続けていきたいと思っています」と強く語ってくれた。

(文/佐久間香苗)

●学校データ(SCHOOL DATA)

所在地〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-10-7
TEL03-3467-8111
学校公式サイトhttps://www.bosei.tokai.ed.jp
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代々木公園駅(東京メトロ千代田線)徒歩8分
駒場東大前駅(京王井の頭線)徒歩10分
大学合格実績(過去5年間)東海大学、その他