足立学園中学校
“失敗してもいい、成果がでなくてもいい” 驚くような発想の探究論文を生む校風
注目ポイント
- 6年間を通じ生徒一人一人の“志”を完成させる「志共育」
- 自由な発想で取り組む「探究論文」で培う一生涯の探究心
- 視野を広げ、世界を知るアフリカ・スタディーツアー
新たな教育の軸“志”を見出す『志共育』
近年、新しい教育方針である『志共育』を掲げる足立学園。中高6年間を通じて、生徒一人一人が自らの“志”を見出すことを目標にしている。足立学園での“志”とは〈世のため、人のため、未来のために自分の心の奥底にある崇高な想いを、自らを活かして、実現していく決意〉を指す。例えば「医師や社長になってよい暮らしがしたい」だけでは利他の精神がない。社会や他者に対して、どのような貢献ができるのかが重要であり、その貢献が自らの幸せにつながることが、同校での“志”なのだ。
第一志望者を対象とした「志入試」も志共育の一環だ。将来の目標(志)などを100字程度でまとめたエントリーシートを提出し、試験当日は国語、算数の基礎学力テストのほか、親子面接を実施する。小学生では目標や夢を持てていない児童も少なくない。井上実校長は「まずは親子でよく話し合い、本人のよいところを引き出すことが大切」と語る。家庭でのそうしたやりとりによって子どもたちは、自己肯定感が高まり、それが自信となり、いわば“志”の種の萌芽へとつながっていく。
「志入試」は4年目を迎えたが、難関校との併願者も着実に増え、人気は上昇中だ。志入試組の生徒たちは、入学後もそれぞれ活躍を見せているという。井上校長も個人差はあると断りながらも、「元気で前向きな生徒が多い。リーダーシップを発揮したり、勉強、部活動、生徒会活動など各々得意分野に真剣に向き合う姿を見せてくれる」と笑みをこぼす。
発達段階に応じた志共育で“志”の礎を築く
学年が進むうちに生徒たちは自らの“志”を答えることができるようになるというが、これには発達段階に応じた同校の志共育が大きく寄与する。
中1では他者への配慮はハードルが高いため自己の確立からスタート。志共育推進委員会委員長の原匠教諭は「中1では自尊心、自信、自負心、自己肯定感のない生徒も散見されるため、まずは自分を振り返り、得意を大切にしながら、自分の夢や志を明確にしていく」と語る。その上で志を立てて発表することが目標だ。中2になると、他者への配慮という視点も取り入れ、自分を取り巻く環境、課題などを知り、“志”をどのように社会や他者へ活かせるかまで考え発表する。中3では現場の仕事を体験する「企業インターン」を通じ、自分の強みや適性、仕事、将来について考えていく。原教諭は、「中学3年間で“志”を完成させ、将来の目標に沿った文理選択など、どんな高校生になりたいかというビジョンを持って進学していく」と説明する。
2年間の研究テーマは自由失敗を恐れずやりたいことを研究
生徒たちは自らの志を得て、高1からの「探究学習」へと進む。5年前に高校に導入された「探究コース」の後半は、ゼミに分かれるところからスタート。自分の「知りたいこと」を発見し、テーマを決めて最終的に1万字の論文を作成する。テーマは自由で、個人個人が本当に取り組みたいこと、将来を見据えて学びたいことを探し、文献や実験を通して深く考察していく。
生徒たちは驚くような発想で様々なテーマを生み出す。一例を挙げると、Sさんの研究テーマは『遠隔手術で医療崩壊を防げるか』。遠隔操作によるロボットが手術の一員を担うことに人々は嫌悪感を抱くのではないかとの仮説を立て、アンケート調査も実施し考察。Sさんは大学でも研究を続けたいという意志もあり、探究学習を自らの進路と結びつけた。筑波大学の総合型選抜入試に合格し、工学システム学科に進学したという。また、ゲームが大好きだというTさんは『VRでの感覚フィードバック』がテーマ。ヴァーチャルリアリティ空間上での触覚提示に対して発生し得るクロスモーダル現象の関係性を明らかにした。電気通信大学でクロスモーダル現象を研究する教授へ自らコンタクトをとり様々な助言も受け、論文を完成させている。
一方で紆余曲折を経験する生徒もいる。Nさんは『独学について』の研究を進め、早々に8千字の論文を仕上げたが「独学に発展性はない」と結論づけた。思い悩んだ末、今度は京都の漢字博物館で発想を得た「幽霊文字」に魅了され研究をシフト。授業研究係主任の飯山泰介教諭は、「時間がかかっても、失敗しても、成果が出なくても、やりたいことをやればいい、というのが探究論文取り組みのモットー。Nさんのように不満足な研究でもそこから何かを必ず得る」と失敗を恐れず自分のやりたいことに真剣に取り組むことの意義を語る。また、今後は学術コンテストや専門学会への論文応募、他校との交流、大学や企業との連携など学外での活動にも注力したいという。そして、「答えのない問に挑戦し、未来を切り拓く、一生涯の探究力を身に付けけてほしい」と生徒への思いを語った。
新“志”グローバルプログラムはアフリカ・スタディーツアー
「確固たる志を持つには体験に勝るものはない」という井上校長。なかでも“志”グローバルプログラムの豊富さには定評がある。プログラムはすべて希望制で、オーストラリア・スタディーツアー(中1〜高2)、海外ターム留学(高1)、海外修学旅行(高2)、オックスフォード大学ハートフォードカレッジ特別留学プログラム(16歳以上)などがある。
さらに新しいプログラムとして昨年12月に9日間のアフリカ・スタディーツアーがスタートした。これは青年海外協力隊員としてラオスに赴任した経験を持つ原教諭による発案だ。自分たちがいかに恵まれているかを実感し、自分に何ができるかを考える端緒にしてほしいとの想いとともに、「広大な大地に近い将来世界人口の4分の1が暮らす発展途上のアフリカのエネルギー、そして本当の豊かさとは何かを考える機会にもしてほしい。また今後、日本が世界で生き残っていくためにも、これからの日本を担う若い世代が真のアフリカを知ることには意義がある」と原教諭。
プログラムには、中3から高2までの9名が参加し、安心安全を考えて教員4名が同行。訪問国はタンザニアで、サファリや現地校・マサイ族との交流、コーヒープランテーションの見学、植林活動などが行われた。宿泊はホテルのほか野生動物が深夜徘徊するキャンプにも4泊した。
帰国後の生徒からは「楽しかった!」との声とともに「視野が広がった」「人に優しくできるようになった」「おおらかになった」などが聞かれ、保護者からは「積極的になった」「チャンスを逃さなくなった」「自ら勉強し、自分の意見を言えるようになった」など、わが子の成長を喜ぶ声が寄せられている。参加者の一人は、タンザニアの公用語であるスワヒリ語を学べる大学に「浪人してでも行く!」と宣言しているという。これは単によりよい大学、今の成績に見合った大学といった選択ではなく、自分の“志”のための大学選択へと変わった瞬間と言えるだろう。
原教諭は「確かな答えのない世界を生きていく生徒たちには、“余計な”体験や挑戦が大きな財産になる。アフリカ・スタディーツアーはその好例。そして生徒自らがそれらの体験から見出す答えにこそ意義があり面白い。だからこそ教員は教え過ぎず見守ることに徹することが大切」と語った。
失敗も回り道も、揺るぎない“志”さえあれば大きな力へと変わる。足立学園の志共育は、未来を生きる生徒たちにとって生涯にわたる道標となるに違いない。
学校データ(SCHOOL DATA)
所在地 | 〒120-0026 東京都足立区千住旭町40-24 |
TEL | 03-3888-5331 |
学校公式サイト | https://www.adachigakuen-jh.ed.jp/ |
海外進学支援 | 有 |
帰国生入試 | 無 |
アクセス | 北千住駅(JR常磐線、東京メトロ千代田線・日比谷線、東武スカイツリーライン、つくばエクスプレス)徒歩1分 京成関屋駅(京成線)徒歩7分 |
国内外大学合格実績(過去3年間) | 東京、東京工業、一橋、北海道、名古屋、九州、筑波、東京農工、東京学芸、東京藝術、千葉、埼玉、静岡、金沢、広島、長崎、水産、防衛、慶應義塾、早稲田、上智、東京理科、東京医科、獨協医科、埼玉医科、金沢医科、東北医科薬科、イリノイ、デューク、ユタ、グリフィス、北京言語など |