中高大連携教育の新しい動き

注目の中高大連携教育

教育効果が楽しみな新しい中高大連携教育

「中高大連携教育」が、近年急速に進化・多彩化している。大学の研究室や医療施設・実験棟を舞台に、第一線の研究者や現場の医師から直接学ぶ機会が中高生に広く開かれるようになり、従来の教科学習や受験準備の枠を大きく超え、社会と繋がった学びが進化しつつある。単なる体験型イベントにとどまらず、専門知識の習得・探究的思考の育成・キャリア形成まで見据えた本格的な教育連携は、「大学で学ぶ」ことへの具体的なイメージを育むとともに、生徒の知的好奇心と社会への眼を育てる。総合型選抜の定着により、志望大学への関心や探究活動の実績を重視する傾向が強まったことも、これらの取り組みを後押しする要因の一つだろう。本稿では独自の中高大連携教育を実践する3校――「生徒の自主研究から自然発生した工・農学系学部との連携」「理想の医師育成を目指した医学部プログラム」「STEAM教育の一翼を担う連携」――を紹介する。

自然発生的な連携教育で学問の魅力を発見


普連土学園中学校 工・農学系の連携教育

Engineering-Agriculture Collaborative Education

地中海風の明るい外観の普連土学園の校舎――これは、昭和の名建築家であり、法政大学建築学科の礎を築いた故・大江宏氏が設計を手掛けた歴史的建築物である。これが縁となって、法政大学デザイン工学部建築学科の小堀哲夫研究室が進めている大江プロジェクトのフィールドワークに中高18名の同校生徒が偶然参画することになり、法政大学との中高大連携教育が自然と誕生した。取り組みは中学校舎の実測調査に始まり、その後も法政大生と共に、都内各所にある大江建築のフィールド調査を行っている。3年間で約50名の生徒が大学レベルの事例研究に携わり、今や同校の連携教育の新たな柱として定着しつつある。

さらに法政大学との連携は、海外の住環境に関する学習にも広がる。同校はカンボジアで地雷撤去活動を支援する異文化交流研修「カンボジア アキラー プロジェクト」を行っているが、研修中に東南アジア最大の湖であるトンレサップ湖畔の高床式住居を訪れた際、法政大学建築学科で住環境の研究を行っている加用現空教授と現地をオンラインでつなげ、リアルタイムでレクチャーを受けた。雨季と乾季の水位変化が住宅に及ぼす影響、気候と生活文化に適応した建築の形などを実地で学び、環境と建築の相互関係を捉える視点が育まれた。

この異文化交流研修では、第1回に参加した生徒の自主研究から東京農業大学土壌学研究室との連携も生まれている。研究室を訪問し、カンボジアの農村の土壌汚染対策、水耕栽培の導入の可能性、土地の地力回復などの課題など、専門性の高い学びを得た。広報部長の池田雄史教諭は「高大連携は形式よりも中身や密度。お互いに何かをやりたいという強い気持ちを抱けるかどうかが大切なのだと感じました」と語る。

こうした取り組みは、学問・研究がいかに広がっていくのか、そうした魅力を中高生たちに実感させている。その結果、生徒たちの進路選択も広がりをみせている。特に建築や都市環境、デザインなどの領域に興味を持つ生徒が増加。2024年度卒業生の理系進学率はおよそ3割、うち工学系に進む割合が最も高かったという。生徒たちの自主的な探究心による自然発生的な中高大連携教育は、学問・研究の世界の魅力を発見する学びのあり方として大いに注目したい。

(文/菅原淳子)

「理想の医師」育成を目指す連携教育


城北中学校 医学部との連携教育

Collaborative education with the Faculty of Medicine

2023年度から「理想の医師」育成を目的とした順天堂大学との高大連携プログラムがスタートした。プログラムは理想の医師としてのあるべき姿を学ぶ「StageⅠ」、実際の医療現場を体験する「StageⅡ」に分けて展開される。

「StageⅠ」では、順天堂大学医学部附属病院の病理医のドクターを招いたワークショップが校内で行われる。ゲーム感覚で取り組める内容だが、これが医師のあるべき姿、最初にしなければならないことを自然と実感させられる場となっている。「病名のネーミング」のワークでは、「朝早く起きられない人」や「勉強が苦手な人」に病名をつけるというテーマを設定。表面的な症状だけでなく、症状が現れた理由や背景にも着目し、身体・心理・社会的背景まで含めて患者を全人的に診ることの重要性を学ぶのだ。

バナナの熟し具合を病態の変化に見立てた病理診断の疑似体験では、「食べられない状態」になったものを「悪性腫瘍」とし、どこで「食べられる」「食べられない」を線引きするかを考察。未熟から過熟まで成熟度がわずかに異なる複数のバナナの写真を見比べながら、生徒はディスカッションを重ねていく。

順天堂大学を実際に訪問して行われる「StageⅡ」は、実地に即した専門性の高い学習内容となっている。医療シミュレーターで気管挿管や心肺蘇生、縫合のほか、VRカメラを用いて手術前の手指消毒を疑似体験する。さらに近年、医療現場で重要視されている「チーム医療」を知るために、同大学の診療放射線学科の実習棟や設備・機材の見学も実施。医療は医師だけで行われるのでなく、多職種のスタッフがそれぞれの分野の専門性を発揮して成り立つっていることを生徒たちは実感していく。

さらに「StageⅡ」では、順天堂大学併設の日本医学教育歴史館で「解体新書」に始まる日本の西洋医学と先人たちが築いて来た医学進歩の歴史を学び、最前線で活躍する現役医師との交流も行われる。過去には小児外科のスペシャリストとして知られる山高篤行先生、ラグビーW杯日本代表チームのスポーツドクターを務めた髙澤祐治先生による講演が行われ、生徒は大いに刺激を受けたという。

医療疑似体験だけにとどまらず、志と優れた人格の形成を視野に入れた人間教育やチームワーク力の育成まで踏み込んだ高大連携教育は、日本の医学の発展に貢献する若者たちが育っていくことが期待でき、今後が楽しみである。

(文/菅原淳子)

STEAM教育の一翼を担う長期展開型の連携教育


富士見中学校 理科大の連携教育

TUS-Linked Curriculum

「富士見のSTEAM教育では、生徒が理科や数学の学びをより好きになるよう、学びを実生活につなげるテクノロジーやエンジニアリングを大切にしています」――そう語るのは、入試広報部長の藤川建教諭だ。女子校としては珍しく、中学の技術家庭科において「技術」の分野も重視。その学びは高校の情報授業におけるデータサイエンスへと自然な流れでつながっていく。教科横断型授業や、実際に手を動かしながら「ものづくりが社会とどのようにつながり、応用されるのか」を体感する学習を通じて、生徒の知的好奇心を引き出し、探究の眼を社会へと広げるきっかけを生み出している。その先に見据えるのは、社会の様々な課題に自ら向き合い、解決策を見出す力を備えた、実践力のある生徒の育成だ。

そうした教育展開の中で、とりわけ注目に値するのが、東京理科大学との中高大連携教育だ。理系進学を志望する生徒が増加したことを受け、2020年に同大学との教育提携協定を締結した。特筆すべきは、同校教員による常設の「理科大委員会」を設置したこと。教育講座への参加・模擬実験講座の開催・研究室訪問など、多彩な教育プログラムを委員会が自ら企画・運営することで、年単位での深く継続的な連携を可能にしている。

たとえば、週1回の放課後には理科大の学生や大学院生から直接学ぶ講座を開催。「3Dプリンターで身近なものを製作し、その工程を小学生に教えるプロジェクトには、想定以上の生徒が参加しました」と語るのは、情報科の齋藤修一教諭だ。また夏には「理科大探検プログラム」を実施するなど、多様な交流を通じて科学的視点や科学の社会的応用を学ぶ機会も設けられている。

富士見の中高大連携における最大の強みは、常設の理科大委員会という組織基盤を持つことで、単発・短期にとどまらない長期展開型の連携教育を実現している点にある。この取り組みが今後どのようなプログラムを生み出し、どのような教育的成果を積み上げていくのか、その展開が大いに期待できる。

(文/松岡理恵)