武蔵中学校

『自調自考』に込められたメッセージとは? 100年以上、脈々と実践される理念
【注目ポイント】
- 武蔵の『三理想』がOBたちの社会貢献活動に息づく。
- 「やりたいことを止めない、応援する」校風が、主体性と実行力を養う。
- 現代社会でますます重要性を増す「自調自考」の理念。
建学の精神に根ざす「自調自考」の教育理念
「東西文化融合」「世界雄飛」「自調自考(自ら調べ自ら考える)」という武蔵の三理想には、創立者・根津嘉一郎の強い想いが込められている。根津はアメリカ視察時、ロックフェラーなどの実業家が「社会のためにお金を使う」姿勢に深く感銘を受けた。その経験が、「世のため人のために貢献できる人材を育成する」という学校設立の目的へとつながり、三理想が生まれたのだ。以来100年以上、この理念は武蔵の教育の根幹であり続けている。
そして、その本質はOBの活躍する姿の中に明確に表れている。共通するのは、社会の課題を自ら調べ自ら考え、問題解決システムまでを構築しようという姿勢だ。
例えば、文化人類学から始まり公共政策、公衆衛生と研究を積み上げてきた馬渕俊介氏は、世界の保健衛生問題、特にアフリカの課題に取り組んだ。約10年前、エボラ出血熱の対応に携わった際、彼は医師ではなく、保健衛生政治・資金調達・現場問題解決を行うプロデューサー役として世界中の専門家とチームを組み、課題解決に当たり多くの命を救った。
同じくOBの鎌田一宏氏は、奥会津の高齢化地域で医療に取り組んだ。医師である彼が行ったのは「訪問診療のシステム化」。通院自体が困難な地域の現実に直面した時、従来のボランティア診療という枠を超え、医師が出向く仕組みを制度化したのだ。
また、全国こども食堂支援センター・むすびえを設立した湯浅誠氏も、経済的困窮状況にある子どもたちへの支援システムを全国規模で構築した。フードバンク、自立生活サポートセンター、そして年越し派遣村での活動を経て、現在は全国のこども食堂を支援する拠点として機能させている。
これら3人の活動に共通して顕著なのは、『アイデア×現場経験×システム思考』の組み合わせである。既成の枠組みに疑問を持ち、根本から課題を再構成する姿勢。こうした思考と行動の在り方こそ、武蔵の教育理念のひとつ「自調自考」の実践そのものだ。
本質理解と社会貢献を生み出す教育風土
教室では「本質理解」を重視した教育が行われている。数学教育を例に挙げると、一般的な受験型数学は、問題を数多く解き、定理を使って解くスピードを鍛えることに重きを置く。だが武蔵では、公式や定理の導出過程、つまり「なぜならば」という本質理解を最優先とする。例えば、楕円の方程式がある。通常、その方程式は「前提として与えられる」もので、生徒はそれを使って問題を解く。だが武蔵では「その式がどのように導かれるのか」という過程を何度も探求する。その過程において途中を飛ばして授業を進めた際には、「一つひとつ説明して欲しい」と生徒から自然に質問があがり、解説を求めるという。こうした思考習慣が在学中に既に根付いているのだ。
さらに、武蔵の校風全体を貫く「自調自考」の精神は、「やりたいことを見守ってくれる環境」「自分の責任で全てをやる、という自覚が出てくる」といった生徒たちの言葉に表れている。校則がほとんどない自由な環境だからこそ、親や先生に強制されることなく、自ら考え、行動する責任感を深く養うのだ。「競争社会で勝ち抜く人間」になることよりも「独自の道を切り拓き世界で活躍する人間」になることに、より大きな価値を見出すのが武蔵の教育哲学であり、それが校風でもある。
こうした本質理解と「やりたいことを応援する」姿勢は、「グローカル教育」にも一貫して流れている。中2では群馬県みなかみ町での民泊実習に参加。農家に滞在し、農作業や家業を体験する3泊4日のプログラムだ。東京にいては実感できない過疎化や高齢化の問題も、そこに身を置くことで気づきを得る。高校生になるとその挑戦の舞台は海外へと広がる。「国外研修制度」として第二外国語履修生から十数名が選抜され、当該言語の国へ派遣される。
今いる自分の現在地はほんの小さな世界に過ぎない。家庭や学校を飛び出し、どんどん視野を広げてほしい、という想いのもと、学校の外の世界に飛び出す仕掛けが随所に施されている。
さらに、武蔵大学との高大連携も活発化している。注目は「アントレプレナーシップ講座」。教授や社会で活躍する経営者がリレー方式で講義を行い、最後に生徒がビジネスプランを作成・提出するというもの。興味深いのは、ここで才能を発揮するのが、必ずしも成績優秀者とは限らないという点だ。起業家的能力と学校の成績は相関しないという現実が、まさに「固定観念を疑う」武蔵の思考習慣を象徴している。
また、武蔵大学には、ロンドン大学の学位を取得できる国際的プログラムがある。同プログラムの基礎教育プログラム「インターナショナル・ファウンデーション・プログラム」は武蔵の高校生も受講可能である。実際、高校在学中にこれを受講して、イギリスの大学へ進学した例も出ている。

生徒の社会活動、挑戦を応援する制度
武蔵には「国外研修奨学金」を始め「国内活動チャレンジ奨励金」「海外活動チャレンジ奨励金」など複数の奨学金制度がある。これらの基金の誕生は、1998年のナホトカ号重油流出事故が端緒となった。その際、海岸の重油除去のボランティア活動に赴いた生徒が現れたが、この行動に対しただ応援するだけではなく金銭的支援をしようという気運が教員の中に生まれた。当初は教員のカンパから始まったこの支援は、やがて制度化され、今日の奨学金制度の仕組みができたのだ。
制度の継続は、同窓会からの恒常的支援に加えて、武蔵の教育哲学に共感している多数のOBからの寄付によって支えられている。愛校心溢れるOBたちの社会での活躍と彼らによる母校支援は、武蔵の強みの一つであると言える。
OBによる支援は金銭的な部分だけではない。毎年7月には、複数のOBが武蔵を訪れ、自らの体験を語るキャリアガイダンスが開催される。これもOBが後進を応援する事例のひとつである。OBたちは、「成功して収入が増え、楽になった」などと語ることは決してない。「今、こんな面白いことをやっている」「やりたいこと、やりたかったことに真摯に取り組んでいる」というやりがい、達成感を生徒に実感を持って語るのだ。彼らの根底にあるのは「今の自分は、挑戦することを許され、支援されたという武蔵での体験があるから」という想いに他ならない。

自調自考に込められたメッセージ
武蔵OBでもある高野橋雅之校長補佐は、40年前、当時の校長が自身の戦時体験を踏まえて生徒たちに何度も強調していた言葉を記憶している。「それは『偉い人が言うから正しい』『多数決で決まったから正しい』といった思考停止の危険性に対する警告でした」と高野橋校長補佐は振り返る。
その警告の奥底にあるのは、固定観念にとらわれず、規則や前提を疑い、根本から考え直す姿勢。そして、その本質を見抜き、変革を恐れない勇気だ。こうした力を持った人材を育てることが、武蔵の教育の根底にある。SNSなどを通じて情報が氾濫する現代では、多数派の意見や権威ある人の発言が無批判に受け入れられがちだ。だからこそ、武蔵が100年以上にわたって培ってきた「自調自考」教育の重要性は、ますます高まっていると言えるだろう。
学校データ(SCHOOL DATA)
| 所在地 | 〒176-8535 東京都練馬区豊玉上1-26-1 |
| TEL | 03-5984-3741 |
| 学校公式サイト | https://www.musashi.ed.jp/ |
| 海外進学支援 | 有 |
| 帰国生入試 | 無 |
| アクセス | 江古田駅(西武池袋線)徒歩7分 新桜台駅(西武有楽町線)徒歩7分 新江古田駅(都営大江戸線)徒歩7分 中野駅(JR中央線)よりバス「江古田駅」下車徒歩6分 高円寺駅(JR中央線)よりバス「豊玉北」下車徒歩5分 目白駅(JR山手線)よりバス「武蔵大学前」下車 |
| 国内外大学合格実績 (過去3年間) | 東京、京都、東京科学(東京工業・東京医科歯科)、一橋、北海道、東北、大阪、筑波、千葉、横国、群馬、早稲田、慶應義塾、東京理科、上智、国際基督教、東京医科、日本医科、オックスフォード、サセックス、ブリティッシュコロンビア、パデュー、ルートヴィヒ・マクシミリアン(ミュンヘン)、アイントホーフェン工科など |
【関連情報】
きら星のごとく多彩な卒業生を輩出。そこから見える武蔵の人間教育の矜持


