桐朋中学校
電子研・数学研究同好会・音楽部 自由と多様性尊重の校風が創る才能教育
注目ポイント
- 廃材を利用し、教科書では学べない工学を体感する電子研
- 自らの興味関心に耳を傾け難問に挑戦する数学研究同好会
- 多様な価値観を認め合い、一人ひとりの音楽を追究する音楽部
有志研究会ゆえの型破りが独創性を育む電子研
「自主・敬愛・勤労」を教育目標に掲げ、「自由」と「多様性」が校風に満ち溢れた桐朋中学校・高等学校は〈好奇心こそ学びのエンジン〉として知の探究のための環境作りに注力している。自由参加の部活動もそのひとつで、中学生はほぼ100%が何らかのクラブに所属しているという。多種多様な団体が存在するが、ここでは3つの活動を紹介していく。
電子研は電子工作好きが集まるモノづくり集団だ。誰もまだ見たことのないもの、改造前とは似ても似つかないものを作ることをモットーとする。研究会発足の発端は千馬隆志教諭が担任するクラスで行ったラジカセの解体だった。それを見た電子工作好きの同期生が自然と集まり有志研究会に発展した。現在は学校未公認の有志の集まりで、活動も主に昼休みということもあり、生徒は気軽に自由に参加している。一見マイナスともいえるこの環境が逆にプラスの効果を生む。機械の分解も目的の一つであるため、材料は主に廃材を解体し、部品や機構を再利用する。「解体で内部機構を直に見る経験は、工学を体感するよい機会。工学の応用物に触れ苦労や失敗を重ね製作する生徒には教科書の知識だけでない『野生育ち』の強さがある」と千馬教諭。さらに廃材の再利用という点では持続可能社会への貢献、気づきの機会にもなる。何より特許技術が網羅された機械の内部機構は、無駄を削られ、工夫が凝らされた先人の芸術品であり、それを鑑賞することは最良の学び、と千馬教諭は語る。
知識を備えたうえで製作に臨む際に最も重要なのはアイデアであり、自分のアイデアを盛り込むことが創造力やチャレンジ精神を培う。さらに、モノ作りは企画力、組織作りなどの能力もはぐくんでくれる。同研究会は、これまでにも豊かな発想でさまざまな作品を完成させてきた。例えば、プリンターやラジカセを改造した射的マシーン、桐朋祭で廊下を宣伝して走る自律式ロボットやカードを使って自動開閉する入場ゲード、そのほかコロナ禍ならではの作品としてアルコール消毒液のディスペンサーなどもある。また、桐朋祭で入場者に楽しんでもらう玩具作りを行い、桐朋祭校長特別賞(2021)を受けたほか、外部の発表や大会にも挑戦。一例を挙げると、ソレノイドコンテスト (2020年)、 Maker Faire Tokyo 2021オンラインプレゼンテーション、モノコトイノベーション(2021年)では大賞を受賞。今年度は東京ビッグサイトで開催されるMaker Faire Tokyo 2022に参加予定だ。コロナ禍においては、外部発表会やコンテストで知り合った他校のサークルともオンラインで交流会を開くなど新たな活動形態も見いだし、さらなる展開も模索している。
現在、電子研には15~16人が参加している。「二足歩行ロボット格闘技大会のロボコンに出場したい」という竹内さんは建築系学科への進学を希望している。電子研でポスターやプレゼンテーションの映像製作に関わった吹春さんは「製品デザインを学びたい」と将来の希望を語った。
一人の生徒の呼びかけで誕生した、数学好きが集う数学研究同好会
2年前に創設された数学研究同好会。同校の化学部や地学部は有名だが、理系分野で数学のクラブがないことに疑問を持った当時高1だった現部長・渡邊さんが奮起し周囲の数学好きに声をかけ誕生した。現在は、中1から高3までの約20名の生徒が在籍する。「通常授業のようなカリキュラムに沿った学びではなく、自らの興味関心に耳を傾け、自由に数学の世界を旅してほしい」と語る顧問の飯田昌樹教諭は大学の数学科出身ということもあり、生徒に学んでみてほしいテーマや分野はあるが、「それでは自主的な学びではなくなる」とあえてその思いは封印し見守ることに徹しているという。
現在は、数学オリンピックの過去問や部員が作った問題、YouTubeにアップされた問題をみんなでアイデア、意見を出し合いながら解くのが主な活動だ。また、桐朋祭にも参加し、来場者へ配布する問題は数か月を費やし作成するという。
飯田教諭は「部員同士が互いに知識や知恵を出し合うことで、さまざまな解法のアイデアがつながる。それがより深い数学力をはぐくんでくれる」と共同学習の意義を語る。七澤さんも「一人では思いつかない他部員の発想が大きな刺激になる」と教えてくれた。また、これまで高校生の先輩が中1の後輩へ問題を提供する際は、中1の学習範囲内での作問という配慮があったが、「様子を見ながら、より高度な問題へと移行していく」と七澤さん。門馬さんは「今後は数学オリンピックへの挑戦や他校との交流なども行いたい」と展望を語る。卒業後の進路については、「プログラミングの手順が数学に似ている」と気づいた門馬さんは情報系の大学を目指し、将来はプログラマーを希望する。また、七澤さんは大学でも数学系学科へ進学し、「高度な数学を学びたい」と夢を語ってくれた。
場所を見つけられない生徒も包容する、個を尊重する音楽部
生徒の自主性を尊重し、選曲、練習、定期演奏会等の運営を全て生徒主導で行う音楽部。現在49名が在籍、吹奏楽部として、毎年11月末の定期演奏会を集大成とし、卒業式・入学式、桐朋祭、野球部の応援演奏のほか、国立フェスティバルに出場する年もある。そのほか音楽室では数人規模のアンサンブル演奏も行い、管打楽器のほかピアノ伴奏も参加するなど自由な音楽活動を行っている。
現役プロの音楽家でもある顧問の鈴木啓太教諭は、画一的な価値観を排除し、各自の音楽表現活動を追求するため〈外部コンクールには出ない〉〈顧問が音楽的なアドバイスはしない〉を原則としている。中3の郡さんは小1からオーケストラでのホルン演奏経験を持つ本格派だが、体育会系の吹奏楽部ではなく「楽しみながら音楽を続けたかった」と入部の動機を教えてくれた。また、話し合いを大切にし、最高学年の高2は、部の方針や運営方法を丁寧に話し合い、人間関係を構築していく。楽器も基本的に先輩が後輩に指導するが、楽器を〈正しく鳴らす〉のではなく、〈どのようにしたら鳴るか〉を実験、研究するのが伝統だという。
「最初から力のある優秀な生徒ばかりが集まるわけではなく、むしろ一風変わった価値観を持った生徒が集まりやすい」と鈴木教諭。また学校で居場所を見つけられなかった生徒が入部後、クラスにとけ込み、他部で挫折した生徒が、中途入部し卒業まで在籍するケースも多いという。同部には居場所を見いだせなかった生徒たちをも自然に受け入れるオープンな雰囲気があるようだ。「さまざまな経験をしてきた生徒が集まり、互いの価値観を認め合うことで、多様な価値観が形成される。そのことが演奏にも人間関係にもよい影響を与えている」と鈴木教諭は語る。
OBの進路もバリエーションに富み、海外大学のほか、東大や医学部進学者も多いという。「日々の活動で何をモチベーションとし、どのような将来像を描くかを考えながら活動するため、自己を確立して飛躍していった生徒が多い」と鈴木教諭。「個性的な部員たちをまとめるのは苦労もある」と笑う部員の井上さんは、法律の歴史を学びたいと法学部を目指す。奥野さんは「運営の経験から人に興味が湧いた」と経営工学専攻を希望している。
このように桐朋の校風は、それぞれの研究会、同好会、部内でも深く浸透している。中高時代に好きなことに没頭できる環境は、生徒たちの才能を磨くだけでなく、学校内のもう一つの大切な“居場所”としての役割を担っているようだ。
学校データ(SCHOOL DATA)
所在地 | 〒186-0004 東京都国立市中3-1-10 |
TEL | 042-577-2171 |
学校公式サイト | https://www.toho.ed.jp/ |
海外進学支援 | 有 |
帰国生入試 | 無 |
アクセス | 国立駅(JR中央線)徒歩15分 谷保駅(JR南武線)徒歩15分 |
国内外大学合格実績(過去3年間) | 東京、京都、東京工業、一橋、北海道、東北、大阪、九州、東京医科歯科、東京外国語、浜松医科、東京都立、防衛医科、慶應義塾、早稲田、上智、アマースト、ウィリアムズ、ハミルトンなど |