巣鴨中学校

オンライン国際教育Double Helix(ダブル・ヒーリックス)

日本の教育改革をめざすフロントランナー
男子の挑戦心を引き出しオックスブリッジへの道を拓く

注目ポイント

  • オックスブリッジなど超一流大学への進学ルートを確立
  • 「算数選抜入試」を新設。世界に通用する数学力を身につける
  • 高次の思考へ導く国際教育プログラム「Double Helix(ダブル・ヒーリックス)」

得意の数学でオックスフォード大へ進学

イギリスのパブリック・スクール「クライストカレッジ・ブレコン」は、ウェールズ南部に位置する1541年創立の伝統校。巣鴨出身の金田隼人さんは、約2年間この学校に通い、2019年秋、世界屈指のオックスフォード大学への進学を果たした。

この快挙がターニングポイントとなり、巣鴨はクライストカレッジと「フレンドシップ・アグリーメント」を締結。兼ねてより可能であった1年留学だけでなく、巣鴨が推薦する生徒は優先的に転籍が認められ、イギリスの大学へ直接進学することが可能となった。

成績次第では、世界屈指のオックスフォード大学やケンブリッジ大学への進学も夢ではない。こうしたルート開拓によって、今や巣鴨生にとってオックスブリッジは現実的な選択肢の一つとなっている。

そんな金田さんの強力な武器となったのが、“世界共通語”である数学だった。もともと日本の数学教育は、世界でもトップレベルだと言われるが、「巣鴨の数学は世界に通用する」と金田さん自身も認めている。理数系が得意な日本の生徒なら、オックスブリッジを十分に狙えると証明したのである。

スタートラインは算数選抜入試

そうした背景の中、巣鴨では、数学教育のレベルアップをはかり、海外進学も視野に入れた指導体制を強化。20年度からは、数学を得意とする受験生をターゲットにした「算数選抜入試」をスタートさせた。

入試問題は5問。前半は基礎力を問う計算問題、後半は難易度の高い長文、記述式問題と続く。

数学科の爲貝基文教諭は、「典型的な小問、思考力を必要とする文章題、長文問題だが、努力した生徒が報われるよう数学科一丸となって作問した」と出題の意図を語る。特に最後の長文問題は、2ページにわたる長文を正確に理解し、立式しなければならない難問中の難問。男子御三家クラスの難関校を併願するトップレベルの受験生が挑む巣鴨の算数選抜入試は、算数の力のみならず、読解力や論理的思考力など自ら考え抜く“地頭のよさ”が試されているのだ。

算数選抜で入学した生徒は、入学後も多くの子がトップ集団に位置している。もともと数学的な感覚に優れており、自学自習で数学に関する月刊誌を購読し、数学オリンピックなどの学力コンテストに挑戦するなど数学への興味関心が強い。

しかし、教員らが驚くのは、こうした生徒の数学に対する熱い思いがクラスメートに伝わり、クラス全体の数学力の底上げに寄与していることである。数学科の西岡暁教諭は、数年前と比較すると難しい授業内容でも食らいつこうとする生徒が増えたと実感。同じ数学科の今坂直哉教諭は、生徒たちが数学の難問に前向きに取り組むためにも、教員自らが日々楽しい授業を行うことが重要だと自戒する。

挫折をバネに一層学業に励む数学系男子

算数選抜で入学した生徒の中には、第一志望が不合格となり、大きなショックを抱えたまま入学する子も多い。だが今では「日本一いい学校と思える」。そう胸を張って彼らは話す。

中3の松永さんもその一人。いざ巣鴨に通い始めると、数学の授業のおもしろさにすぐに魅了されたという。今では友達と競い合い、切磋琢磨するクラスの雰囲気が自身のやる気につながっている。巣鴨の伝統行事である強歩大会や遠泳大会に対しても「挑戦しがいがあるので積極的に参加したい」と意気込む。

中1の峯さんは、巣鴨の授業のテンポの速さが気に入っている。特に数学は、毎回テストの解説を聞くのが楽しみで、将来は数学の知識を生かし、生物の仕組みを解明する学問に打ち込みたいと考えている。受験生には「ぜひ巣鴨の文化祭に足を運んで学校の魅力を肌で感じてほしい」と話す。

中1の鄭さんは、将来は医師になって病気で苦しんでいる人を助けたいという目標があり、英語と数学に特に力を入れている。受験生には「入学したときの達成感は、苦労を上回る達成感が味わえる。ぜひ頑張ってほしい」とエールを送る。

すべての始まりはイートン・サマースクール

巣鴨の生徒は高1,2の夏休みの3週間、名門イートン校の寮で生活しながら、英語やイギリス文化に触れるサマースクールに参加する(希望者数約40名)。イートン校は、これまでに20名の歴代首相を輩出するなど質の高いリーダーシップ教育で知られ、巣鴨はこのサマースクールに首都圏の男子校で唯一参加が認められている。しかし、コロナ禍でここ2年は渡英できずにいる。

そこで2021年は、英語科の岡田英雅教諭の発案で、他校からの参加も可能な国際教育プログラム「Double Helix」をオンラインで開催。岡田教諭はイートン校で培った人脈を駆使し、講師陣の人選やプログラムのテーマ選定、構築までを担当。英語で知識と思考を深めるため、講義はオールイングリッシュで行われる。

「Double Helix」は、二重らせんを意味する。「大量の知識なしに高次の思考は実現しない」と考え、知識と高次の思考、この2つをらせんのように向上させていく狙いが込められている。  さらに岡田教諭には、日本のアクティブ・ラーニングに一石を投じたいという思いもある。知識の前提がないまま稚拙な議論をすることは避け、知識をしっかり蓄えてから高次の議論をさせる。これが「Double Helix」のめざす方向なのだ。

毎年夏には長野県でも、巣鴨サマースクールを開催している

知識を高次の思考に昇華させるリフレクションセッション

2回目となる2022年春は、3都県8校の生徒(30名)が参加。テーマは「歴史」「免疫」「医療」。その道のスペシャリストであるイギリス人講師たちが専門性の高い講義を行う。参加する生徒は、オンライン上で各テーマの基礎知識の理解を促す宿題をこなし、他校の生徒とオンラインで協力しながら課題を仕上げていく。

次に行う「リフレクションセッション」は、知識を高次の思考につなげる、岡田教諭がプログラムの肝と位置づけるセッションだ。リフレクトは反省、振り返りの意味。文字通り参加者が学んだことを振り返る機会となる。

今回、イギリス人講師によるパンデミック時における感染症、ワクチン開発の歴史の講義で、「病原体やワクチンの発見は実験による成果だけでなく、偶然がもたらす恩恵も大きかった」ということを学んだ。生徒にはこの知識をどう高次の思考に結びつけるかを経験させる。

 このリフレクションセッションを担当したのは2人の教員。一人は漢文のスペシャリストであるK校の教諭、もう一人は世界史を専門とするO校の教諭である。先生方はそれぞれの知識や知見に裏打ちされた独自の考えを披露。すると生徒たちは自分の知識の枠を超えた世界に触れ、「専門分野の学びを究めることによって、こんなにおもしろい世界があるんだ、とその奥深さに感動するのです」と岡田教諭は解説する。

「リフレクションセッション」で大人の見識に触れ、自身の知識の至らなさを思い知った生徒たちは、一生懸命本を読み始めるという。興味深いのは、プログラム終了後も参加者が自主的に学んでいることだ。

月1回、生徒たちは「命より尊いものは何か」をオンラインで話し合う。あるときは、祖国を守るために戦う兵士がなぜ戦うのかを議論する。世界に目を向け、話し合うことで自らの視野、考えの幅を広げていく。いったん学びのエンジンに火がつくと、学ぶことがどんどん楽しくなっていくのだ。  こうした波及効果を目の当たりにした教員は、自分の学校の生徒だけでなく、学外の生徒にも貢献できたことに感動し、「こういうことがやりたかったんだ」と再認識する。学校の枠を超えた他流試合が、子どもたちの成長のみならず、教員たちの達成感にもつながっているのだ。

イギリス在住の日本人医師が日本医療界の現状を危惧

巣鴨はハイレベルな理数教育を背景に医学部への進学者も多い。そこで2022年夏には「医療」をテーマにした3回目の「Double Helix」を開催。4名の講師が「世界の医療と医療格差」、「倫理とチームワーク」、「医療倫理(安楽死、幹細胞研究)」、「免疫」について講義を行った。

きっかけは、講師の一人でもある松宮陽輔医師の危機感だ。オックスフォード大学産婦人科専門医でもある松宮氏は、患者のために身を粉にして働く倫理観、使命感を持った医者を育てるプログラムを日本で作りたいと強く願っていたという。イギリス在住の松宮氏は、サバティカル(研究休暇)で来日した3年間で、有名大学医学部の学生を相手に講義を担当。その際、学生から「楽して稼げる科はどこか?」と聞かれ衝撃を受けたという。あらゆる患者に質の高い医療を提供するべく奔走してきた松宮氏にとって、日本医療界の現状を何とかしたいという使命感が湧き起こったのだ。

医学部志望者のための対面式Double Helix(ダブル・ヒーリックス)

岡田教諭の期待~ノブリス・オブリージュの精神~

フランスには「ノブレス・オブリージュ」という言葉がある。身分の高い者は相応の社会的責任や義務があるという意味だが、イギリス社会では、国家から特権を与えられた貴族やエリートは、国家・国民のために尽くす義務があるという意味に受け取られている。

「このプログラムを経験し、医学を本気でめざす人、一方でめざすのをやめる人が出てもいい」と岡田教諭。「偏差値が高いから医学部に行くのは日本だけ。日本の恵まれた環境で学べる子どもたちだからこそ、何のために医学部へ行くのか、人を助けるということはどういうことかを突き詰めて考えてほしい」と話す。今ではこうした考えに共感してくれる教員仲間が独自のうねりを起こし、岡田教諭自身にも着地点が見えないほどの広がりを見せている。「今後は、海外の学校のネットワークも駆使して、もっとおもしろいことが国境を越えてできるかもしれない」と夢は膨らむ。まさに“改革のフロントランナー”だ。

「『Double Helix』のメリットは、学べば学ぶほど新しい世界の見方が増え、足りない部分が見えてくるところ。すると他者と競争する必要がなくなり、自分が唯一無二となる。自分の枠を超え、どんどん自分らしくなる。これこそが『Double Helix』の根本にある」と岡田教諭。学ぶことによって自分にワクワクする。自分の枠を超えた学びが、唯一無二の自分を築くことにつながる。これこそが、日本の教育のあるべき姿なのかもしれない。

学校データ(SCHOOL DATA)

所在地〒170-0012 東京都豊島区上池袋1-21-1
TEL03-3918-5311
学校公式サイトhttps://sugamo.ed.jp/
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国内外大学合格実績(過去3年間)東京、京都、東京工業、一橋、北海道、東北、筑波、東京医科歯科、防衛医科、防衛、慶應義塾、早稲田、上智、東京理科、日本医科、東京慈恵会医科、順天堂(医)、東京医科、ミネソタ州立など

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