障がい者への理解と視点が導くダイバーシティの促進とその効果
川平 稔己
パラアスリート講演会コーディネーター
ダイバーシティという言葉が企業経営のみならず教育現場にも浸透しつつある現在。学生向けのパラアスリートの講演会をコーディネイトする川平稔己さんに障がい者への理解とダイバーシティ社会についてのお話を伺った。
(文・松岡理恵)
東京パラリンピックを契機にパラアスリートの講演会をスタート
料理研究家としてアスリートの栄養管理をはじめ、講演会、出版などで活躍する川平稔己さん。父・川平秀一氏の真空調理法を継承し、食文化を創造する株式会社フードデザイン研究所の経営者でもある。
彼女の障がい者スポーツとの出会いは所属する女性ネットワーク文京という女性経営者の会で会長を任されたとき、障がい者スポーツ写真展を開催したことがきっかけだ。その後、文京区立大塚小学校の学校地域協働本部・地域コーディネーターであったことからパラアスリートの講演会を大塚小学校で行ったのが現在のパラアスリートの講演会コーディネーターの活動へとつながった。
「写真展が東京パラリンピック開催決定直後で、講演会を始めた時期には世間の関心も高く、オリンピックパラリンピック教育が推進されたことも追い風になった」と振り返る。当初はそれを踏まえた学校予算での招聘だったが、その後は企業の協賛も募り、6年目を迎えた現在、着実に活動の幅を広げている。
世界で戦うパラアスリートとの出会いで、障がい者への理解を深める
講演会コーディネーターとしての役割は、学校から、義足の人、視覚障がい者などのパラアスリートの障がいについての要望を受け、学校側の教育目的に沿ったテーマ決めをし、その上で講演者の選定、交渉、招聘までを担う。要望されるテーマは障がいそのものではなく、普段の生活、パラリンピックへの思いなどが多いという。
これまでの講演者には、リオパラリンピック視覚障害者柔道60kg級銀メダルリスト廣瀬誠氏などをはじめとする世界で活躍する選手も多い。彼らと直に接した児童の中には卒業文集で<義足のアスリートと一緒に走ったことが6年間の一番の思い出>と綴ることもあったという。
「パラアスリートとの出会い、触れ合いを通じて、障がい者は特別な存在ではなく、不便はあっても健常者と何ら変わらないということを子どもたちは理解していく。これが何より大切」と川平さんは、その意義を語る。
パラアスリートの講演をきっかけにダイバーシティ社会の実現へ
障がい者スポーツ写真展を開催した際、ある企業から陸上競技用の車椅子であるレーサーの貸し出しを受けた。この企業は障がい者用自動車の製造にも関わっており、その後、陸上競技用車椅子「レーサー」の開発にも大きく関わった。現在、このレーサーを駆って多くの選手が世界のトップで活躍している。
川平さんはこの企業にも『世界に羽ばたく日本の技術』などのテーマで毎年講演を依頼。「『自分達はボランティアで仕事をしているわけでは決してなく、障がい者を含め、全てのお客様の笑顔のためによい商品を作り、買ってもらって世の中に還元する。我々が商品を作るには障がい者の方からの意見は不可欠であり、技術者である自分たちだけで商品は作られているわけではない』と伝えてくれた」と川平さん。使用者である障がい者ならではの視点は、健常者の技術者では気づけない点を見いだし、それが質の高い商品を生み出す。その結果、同社の作るレーサーは世界のトップアスリート達が駆る商品へと成長を遂げたのだ。まさに多様な立場の人々との協働で世界に認められる商品が作り出されるダイバーシティの好例と言えるだろう。互いにないものを補っていく、それができるのがダイバーシティのいいところだ。
「障がい者だけでなく様々な人と分け隔てなく接することで自分の世界は確実に広がり、それはこれからの社会を生き抜く力になる」と川平さんは子どもたちへの思いを語る。今後は栄養指導とパラアスリート支援を融合させたトータルコーディネーターとしての展望も見せる川平さんは最後に「講演会が障がい者への深い理解の入り口となり、ダイバーシティ社会の実現に少しでも貢献したい」と語ってくれた。
お問い合わせ先
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所在地 | 〒381-4301 長野県長野市鬼無里548-1 |
公式サイト | https://www.food-design.co.jp/ |
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